第30話 ページ31
「…そろそろ、行こうかな。」
病室の時計を見ると、あと少しで約束の時間。
好きな人と過ごせる、最後の。
辛くて口元がゆるみそうになるのをぐっと堪えて、立ち上がる。
「さあ行くよ、A！」
世界で一番大好きな人の願いを叶えに。
*****
俺が屋上の扉を開けると、Aちゃんはベンチに腰掛けて待っていた。
…いつもと髪型が違う…
いつもは火傷を見せたくなくて伸ばしていた前髪。
大好きな君に会う最後の日。せめてその日は、お姉ちゃんじゃなくて本当の私を見てもらいたかったの。
「Aちゃん…」
「ココ君。…私…」
彼女の言葉を待つ。
「私生きるよ。死なない。足長おじさんがね、また力を貸してくれたの。」
「…そっか………そっか…」
「今日はココ君に渡したいものがあるんだよ。目、瞑って！」
「ああ。」
「はい、いいよ。」
目を開けると、俺の左手の薬指にはAちゃんの玩具の指輪が。
「…でも、これは…」
「あげちゃう。ココ君が本当に必要としてるから。」
「Aちゃん、俺…」
「君が本当に幸せだと思う道を選んでいいんだよ。…私は赤音ちゃんじゃない。だから、
やっぱり私は、ココ君にも赤音ちゃんにも敵わないや。
でも、天国に行ってしまったけれど、お姉ちゃんを幸せにできるのは、赤音ちゃんをまっすぐ見てくれるココ君にしか、きっとできない。
するとAちゃんは立ち上がり、ケースに手をかけ、ヴァイオリンを取り出した。
「"新郎"九井一くん、あなたは乾赤音を、
病める時も、健やかなる時も、
富める時も、貧しき時も、
妻として愛し、敬い、
慈しむ事を誓いますか？」
…なんて答えは、知ってるけどね。
「…はい、誓います。」
俺の返事とともに彼女がヴァイオリンで奏でたのはメンデルスゾーンの結婚行進曲だった。
「結婚おめでとう。九井一君、九井赤音ちゃん。」
兄ちゃんに怒られるかな。
兄ちゃんはお姉ちゃんに捕らわれないでほしいって言ってたから。
けどね、これが私がしてあげられる、精いっぱいの、たったひとつのマホウだと思ったの。
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桜花(プロフ) - 月華さん» 読んでいただき本当にありがとうございました！！ココ君の気持ちからしても主人公からしても辛いお話でした。切ないお話は初でしたので沢山考えて頑張りました！ (2022年8月1日 5時) (
レス) id: e0b4a0dc7c (このIDを非表示/違反報告)
月華(プロフ) - 桜花さん» 切なくてそれでも温かいお話でした。夢主ちゃんと結ばれて欲しいような気もしましたがそれではココくんはずっと赤音さんを切れないんだろうなと。素敵なお話しありがとうございました。 (2022年8月1日 2時) (レス) @page39 id: cb2ce3c237 (このIDを非表示/違反報告)
桜花(プロフ) - 雪海さん» この物語もいよいよ終盤に向かってきてますね…最後までお付き合い下さいませ！ (2022年6月26日 11時) (レス) @page27 id: e0b4a0dc7c (このIDを非表示/違反報告)
雪海(プロフ) - うう…切ない (2022年6月26日 10時) (レス) @page27 id: ea036f2a24 (このIDを非表示/違反報告)
桜花(プロフ) - 引きこもり隊さん» プレゼントの渡し方はこれがロマンチックかなって思ってましたっ！！こういう雰囲気いいですよね！！！ (2022年6月22日 21時) (レス) @page22 id: e0b4a0dc7c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：桜花 | 作成日時：2022年5月28日 19時
