022 Syunsuke ページ23
＊
一体、何人の男がこの子に恋をしているんやろう。
『みっちー！そこの本取って、こっち上げちゃう』
って、棚の上から俺を見下ろしてやんわり笑う。
さっきあんな暗い顔で俺に恋愛相談してたのに、
まるで別人みたいに明るい顔になってて、
でもAちゃんにはこんなことはよくある話。
「何か、空みたいな人」
「え？」
「空って、すぐ色が変わるじゃん。
そんな風に表情がくるくる変わる、可愛い子なの。
いつも同じ席に座って、本読んでる」
「...へえ、」
「さっき笑ってたと思ったら、急に泣いたりする。
本を読んでて、ってこともあれば、
窓の外を見て急に、なんてこともあってさ。
目が離せないの、何考えてるのかなって」
藤井くんが、前にそんなことを言ってたっけ。
毎朝電車で会う近所の高校の子に恋をして、
その子のことをそんな風に表現していて、
最初は全然意味わからんかったけど。
でも、それがこの子やと分かった今は理解できる。
...厄介や、こういう子を好きになるのは。
彼女の好きなミルク多めのカフェオレの、
溶けた氷がカランと音を立てて揺れる。
そのそばに置かれた読みかけの本と、
入り口の古びた木の扉から吹き込む、
まだ心地よく感じるくらいの風。
それと、ちょっとだけ、海のにおい。
「ねえ、」
『...ん？何？』
「見ておいでよ、朝凪」
『...うん、』
「いろいろ、言ったけど、さ。
でも、せっかくの好きな人の誘いなんやし、
きっと、行かんかったら一生後悔するよ。
やから、Aちゃんが行きたいなら行ってきな」
『...うん』
「...そんで、」
うまくいかへんかったら、俺のとこ来ればええよ。
＊
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作者名：りり | 作成日時：2019年9月1日 20時
