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初夏の朝は、清々しくて心地いい。
早起きして向かった美術室の大きな窓を開けたら、
見慣れた青い海が、近く目線の先に広がる。
軽やかな風にふわりと夏の気配がする、
この季節が世界で1番好き。
「朝がいいよ、朝が」
『朝ですか？』
「うん。美術室、というか、
朝は離れの方になんて誰も来ないから。
心が整理できて、すごいいいんだよね」
『へえ...』
「俺は上手く描けないときとか、
誰にも邪魔されたくないときとか、よく使ってる。
どうせ2年に1人だから、俺が引退したら、
Aちゃんが独り占めするといいよ」
絵が上手く描けなくなったら、どうしたらいいか。
スランプになって聞いたわたしに、
そう教えてくれたのは京本先輩だった。
2年に1度しか部員が入らない、と、
謎のジンクスを持つこの学校の美術部。
わたしが入ったときの唯一の先輩が京本先輩で、
その上もその上も、2年に1人しかいなかったそう。
京本先輩の2つ上の薫先輩はそんな部を気にして、
卒業後もよく遊びに来てくれていたから、
高校では被っていないけど、
私のことも可愛がってくれていたりして。
京本先輩にそう教えてもらってから、2年。
上手く描けないときだけじゃなく、
気分転換したいときや、嫌なことがあったときも、
わたしは朝の美術室を使っている。
引退したら作間くんに教えてあげるつもりだけど、
それまではここを誰にも取られたくなくて。
古びた離れの、どこかノスタルジックな空間を、
今日もわたしは独り占めしている。
...はず、だったけど。
「早起きだな、相変わらず」
『...先生こそ、』
「教材の準備し忘れて帰ったんだよ、昨日」
『...不良教師』
「深澤先生に飲みに連れ出されたの。
付き合いがあんだよ俺だって」
ここを独り占めできなくするのが、
松村先生なら嫌じゃない、なんて。
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作者名：りり | 作成日時：2019年9月1日 20時
