煉獄家の女中が鬼殺隊に入らない理由【煉獄杏寿郎】

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5年前









ーAsideー



世界で一番愛しい唇が、私の唇に近づくのを感じる。




“このキスの意味はなんなのか”


一瞬たりとも、そんな疑問は脳裏を過らなかった。




彼は本気なのか、

それともお互いに雰囲気に呑まれただけなのか。



これから私たちの関係はどうなってしまうのか。




私はどんな気持ちで

これから彼の帰りを待つべきなのか。






そんなこと、彼の熱に犯 された私の頭では

何も考えられていなかったのが現実だ。





ただ彼の唇が欲しい。




溶けて流れ出しそうな心がそう叫んだ、その時。






槇「杏寿郎、何をしている」







予期せぬその槇寿郎の声に、

全身の血が引くのがわかる。




きっと台所にお酒でも取りに来たのだろう。




一瞬で瞳を開けると、

未だ私を胸で庇ったまま、同じく焦り散らかしている

杏寿郎の顔が遠くにあった。





不幸中の幸いにも、

彼の身長と羽織のおかげで、

槇寿郎の目に私の姿は映っていないようだ。






どうすれば、と迷う時間もない上、


下手に演技でもすれば、

槇寿郎はきっと見抜いてくる。






そう踏んだ私は、勢いよく彼の胸へ倒れ込み

全体重をかけた。





杏「！？」




状況に流されるがまま、

彼が私を抱き留めるので


その焦りように、

槇寿郎も異変に気がついたようだ。





槇「なんだ、どうした」




ドスドスと大きな足音をたてて

槇寿郎も近づいてくるのが分かる。




ここで私は、うまく誤魔化せると確信した。





杏「いえ。Aがいきなりっ…」




A「すみません、一升瓶を運んでいると

　 急に目眩がして…。

　 杏寿郎さんの手を煩わせてしまいました」






丁度運んできた一升瓶たちが棚に並べてあったこと、

そして杏寿郎が本気で焦っていたことが重なり、



槇寿郎はあっけなく

私の言葉を信じたのだった。





病人であれば、

責め立てることもできないだろうと


私は出来るだけ辛そうな表情を保つ。










こうして15歳二人のファーストキスは、

未遂に終わったのだった。












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