毒を以て毒を制す／２ ページ18
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Aは壁際のカウンター席に腰を下ろした。俺もその隣に腰を下ろす。橙に光る机の上で、彼女の指だけがばらばらと動いた。口髭を生やしたマスターに、少し高めの葡萄酒の名前を口に出した。
「 お水、ください。 」
てんで、本当に此奴が何を考えているのか、解らない。少しだけ見詰めていると、その視線に気が付いたのかふと此方を向く。
「 なあに、中也 」
＿＿まるで葡萄酒の様な奴だと、唐突にそう思った。冷え過ぎたそのグラスを両手で温めながら、何でもねえよと口にする。
葡萄酒は、その葡萄の糖度が高ければ高いほど、アルコール度数も高くなる。だから、出来上がるまでその度数は殆ど未知なのである。だから、殆どの葡萄酒はあまり度数が変わらないのである。
「 何でも、ねェ 」
もう一度口に出して、自分を諭す様にすると、ひとくち目は何だかざらざらとした。そっか、と隣で消え入りそうな声が聞こえた。
＿＿今日は随分、少なくとも何時もよりかは幾倍か、綺麗じゃねェか、手前。
店内の数人の男の集団が、彼女を見ているのが解った。睨みを効かせながらも、太宰のぽんつくの云った通りになっただなんて思考を回す。
「 あのさ、太宰はさ。なんで私なんかを守りたいだなんて云ったのかな」
( それはお前が彼奴の
云える筈もなく、一目も見ていないのに想像出来る彼女の何とも云えない横顔、また口内に葡萄の香り。
「 ねえ中也。私はね、太宰と、君の元相棒と、接吻したことがあるよ。その先も、最後までしたことがある。引くよね、不快だよね、＿＿＿＿嫌になった、かな 」
「 嫌になれる筈、ねェだろ 」
知らなかった。あの青鯖、真逆此奴にそこまでしているとは。思わず出た言葉に口を噤むと、細いグラスの持ち手が少し音を立てる。割ってしまったら困るので、一旦離した。
ちらりと見ると、彼女はじっと前を見つめたまま、何か刃物で刺されたかの様な顔をしていた。少しだけ開いた唇から微かに言葉が漏れる。
「 太宰があの時何と云ったのか、憶えていたなら良かったのに。人間は忘れる生き物だって、如何して。だって私、“酷い”って言葉しか憶えてないのに。でも今は、それが私に向けられたものなのだろうなと思うことにしてる」
「 莫迦だなァ、テメェ 」
「 良いよ、それで。好きなだけ罵ってくれたら良い 」
＿＿まるで、葡萄酒みたいな奴だと、思った。
彼女の汚れてしまった様な悲しみが深ければ深くなるほど、残酷な程に彼女は綺麗になるのである。
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ねむい(プロフ) - kuroさん» こんにちは、本当にありがとうございます！とても励みになります！これからもどうぞよろしくお願い致します！ (2020年1月24日 23時) (
レス) id: f7d54c694c (このIDを非表示/違反報告)
kuro(プロフ) - この先の展開がとても気になります！更新頑張ってください！ (2020年1月24日 8時) (レス) id: f9572c4e12 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ねむい | 作者ホームページ：
作成日時：2020年1月19日 23時
