朦朧/1 ページ2
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「 __川端さんッ! 」
ああ、やっとか。やっと
牢を喰い破る音がして、はっきりしない意識の中そんなことを考えた。
「 あくた、がわ 」
一寸腕を撃たれたのは予想外だったから、出血量が多くて上手く呂律も回らない。そろそろ傷口が熱を持ち出したので、危ない。
「 私に構わず、行って。…私の役目はまだ終わってない 」
「 __承知。後で必ず参上します 」
あの子は私に、太宰の影を見ているのだと思う。太宰の
私には、そういうことがよくあった。異能を用いていなくても、誰かの影を被せられることが。その、私が内包する“何か”の所為で、何度も何度も苦しんだ。
だから、余計にこの異能力が煩わしい。私は其れだけでもう随分と疲れているのに、持てる異能は私の妥協を許してくれなかった。
__『 この異能は私にぴったり 』
中也にそう告げたとき、胸の内がとても苦しかった。この異能が私に合っていないと云ったのは紛れもなく中也だったからだ。
気付いてたよ、あの時一寸だけ、悲しそうな顔をしたよね。
「 異能力 」
がくん、と下降感。敦くんと芥川は合流したのだろうか。白鯨が、愛する街ヨコハマに向かって、落ち始めている。
「 千羽鶴 」
私の異能は、他人のためにあった。今までは。
私は異能力を使っている時の自分の顔を、相手の精神を操って見せている幻覚を、今まで一度も見たことがなかった。
だから、譬えば私が私のために異能を使ったとして。
芥川が牢を喰い破った時の破片が足元に落ちていた。キラキラと光を映し出すそれは、薄ぼんやりと私の輪郭を映す。
持ち上げて覗き込むと、とても眩しい。
知らない、男の人の顔だった。
「 だあれ、あなた 」
呟いた言葉に、その男は同じく口を動かした。自身の異能に、精神を操作されている。でも不思議と、嫌な気持ちにはならなかった。
「 ……そっか、分からないんだね 」
こうしている間に白鯨はどんどん下降している。上の辺りから衝撃音が聞こえた。もう共同作戦は始まっているようだ。
これが失敗したら、私は此処で死ぬことになるけれど。最後にあなたと話せてよかった。
「 私は川端A。まだまだ、あなたの力を借りて生きる心算でいるよ 」
微笑んだ男の人は涙を零したから、私は其れを拭う。仕方がないな、という風に。
ぼんやりとした意識を手放す。
全く誰か分からない其の人は、不思議で、暖かくて、寂しそうで。嗚呼、それでもなんだか少しだけ、懐かしかった。
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ねむい(プロフ) - kuroさん» こんにちは、本当にありがとうございます!とても励みになります!これからもどうぞよろしくお願い致します! (2020年1月24日 23時) (レス) id: f7d54c694c (このIDを非表示/違反報告)
kuro(プロフ) - この先の展開がとても気になります!更新頑張ってください! (2020年1月24日 8時) (レス) id: f9572c4e12 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ねむい | 作者ホームページ:
作成日時:2020年1月19日 23時