28 ページ28
，
１月３日、駅前に行く約束は果たせなかった。
４時１２分、私は溢れ出す創作意欲を書き出すのに精一杯だったのだ。
，
家を飛び出して駅へ走った。月永が言うインスピレーション が止まらなかったのは、瀬名に会えるという嬉しさからだろう。
ちらちらと雪が降り始めた頃、駅前の建物に入っていく彼の後姿が見えた。手を伸ばしたけれど、追いかけなかったのは胸の高鳴りが抑えられなかったから。彼の背中が少し寂しげなのは、私が来なかったから と勘違いしていいだろうか。
彼の足を追うように建物に入ろうとして足に何かが引っかかる。目に映りこむ水色は、少しだけアルフェラッツに似ていた。
，
駅の階段に それ を抱えてしゃがみ込む。階段はちょうど正面に施設の入り口が見えるようになっていて、あの後直ぐに脇目も振らず走って行った彼の姿もはっきり見て取れた。
「 …行かなきゃ 」
立ち上がって通行人たちと同じ目線になった。雪は鼻先に降ってくる。彼が向かった方向は、海の見えるあの場所。
一歩、二歩。薄く雪が積もったアスファルトに踏み出して、いつものようにペースを作っていく。走り出す瞬間ほど好きなものはなかった。
【 走れるよ 】
あの時の言葉が、背中を押してくれた大きな手が。どれだけ私を救ってくれたか、彼は知らないのだろう。最初はあの性格が嫌いだったのに、怖かったのに。初めて彼の棘の裏の優しさに気がついたのは大会の日。いや、もっと前からきっと。
「 っい、っ 」
膝に鈍痛が走る。彼に追いつきそうだったけれど、彼の背中はどんどん遠ざかっていく。やっぱり走るのはもう無理なのだろうか。
ふとクリスマスに耳にしたフレーズが頭を駆け抜けた。“ 誰より強く此処に在ること ”
「 ふ、ふふ、ははは 」
もう、走れなくてもいいか。そのフレーズを口ずさむと相変わらず音痴な自分に苦笑が零れた。もう、走らなくてもいいか。
ぎゅ とマフラーを握った。彼に似合いそうだ とこのマフラーを選んだ日からきっと、彼に惹かれていたんだ。
雪はまだまだ降りそうだ、学院の正門の前で一人、水色を抱えて彼を待つ。
「 A 」
私を呼ぶ声がした。
今日は夜まで雪かな。粉雪はまるで空に輝く星が降ってきたみたいだね。
，
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 126人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「あんスタ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ねむい(プロフ) - minatoさん» そのように感じていただきとてもうれしいです；；お読みいただきありがとうございました。細かい点まで読んでいただき、嬉しい限りです。これからもどうぞよろしくお願い致します。 (2017年12月26日 14時) (
レス) id: f7d54c694c (このIDを非表示/違反報告)
minato(プロフ) - コメ失礼します。お話、すごく良かったです...!ねむいさんの表現や、情景描写がすごく綺麗でせないずの精巧な美しさというか繊細な美しさ的なもの(語彙力不足)と表現によって引き出された情景や登場人物の美しさに感動しました。一言でいうと好きです((お疲れ様でした! (2017年12月26日 14時) (レス) id: 049240713a (このIDを非表示/違反報告)
ねむい(プロフ) - しみ猫さん» とても嬉しいコメントありがとうございます、そのように感じていただけて嬉しい限りです。お読みいただきありがとうございました！ (2017年12月13日 23時) (レス) id: f7d54c694c (このIDを非表示/違反報告)
しみ猫(プロフ) - 感動しました、夢主の天才だけど、とても人間らしくて、読むのがとても楽しかったです、すばらしい作品をありがとうございました。 (2017年12月13日 23時) (レス) id: 48eca2380d (このIDを非表示/違反報告)
ねむい(プロフ) - イチゴプリンさん» ありがとうございます〜！いえいえ、拙い文章ですが楽しんでいただけたのなら幸いです；； (2017年12月10日 23時) (レス) id: f7d54c694c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ねむい | 作者ホームページ：
作成日時：2017年12月6日 18時
