検索窓
今日:3 hit、昨日:3 hit、合計:46,774 hit

夜の底は白く/4 ページ43





「 …ちゅ、うや 」

「 何だよ 」

「 ……あれ?えーと、何でもない… 」


声に出した言葉に一番驚いたのは中也ではなくて自分だった。口に手を当てると微かに唇が震えているのが分かる。


「 …何で震えてんだ? 」

「 え? 」


震えは最早全身に伝わって来ていた。身を硬くして何とか抑えると、一層中也は眉を顰める。


「 A 」

「 中也、ごめん、私行かなきゃ 」


指先が触れる前に勢いよく立ち上がると、先程の事で痛めた腰がぴきぴきと小さく音を立てた。執務室の床に脱ぎ散らかしていた靴に爪先を滑らせて首元を風が抜けた。


「 おい、A 」

「 なあに 」


「 約束だ 」


_____ごめん、ごめんね中也。
きっと其れは守れないや。多分破ってしまうよ。もう最悪の場合、会えないかもしれない。其れでいいなら、喜んでしよう。


「 ちゃんと、帰ってこいよ 」

「 うん 」








作戦が、開始する。
其れは川端が森から直々に任された極秘任務だった。最も、川端が提案したことだが。


「 あれ、鏡花 」

「 …ッ! 」


フィッツジェラルドの方へ歩み寄る川端の足取りは軽い。鏡花は敦を抱えたまま橋の鉄骨構造に飛び乗る寸前、すれ違った彼女の柔い雰囲気に一瞬身じろいだ。

_____かつての組織の、謎が多い人。真っ黒な瞳が此方を真っ直ぐ見つめている。鏡花は勢いよく橋から飛び出し船の上に着地した。


「 ふうん、うまくやってるみたいじゃん、いいなあ転職できて……まあ、それはそうとおじさま 」

「 ふむ…君は……カウ…カウェ…カウェビー君! 」

「 そうです私がカウェビ……ちげえ!!そっちの方が絶対云いにくいだろ! 」


フィッツジェラルドは自分の前で立ち止まった川端をまじまじと見下ろした。川端は尚、ニコニコと底知れない笑顔で其処に佇んでいた。


「 ねえ、おじさま 」

「 何だ?まあ、カウェ…カワバタ君の云おうとしている事は大方予想がつくが 」

「 じゃあ、話が早いね 」


川端は自分の首を片手で掴んで薄ら笑いを浮かべ、親指を上に向けて立てた。ヨコハマの空に、向けて。


「 おじさま、敦くんと一緒に私も連れてってよ 」

_____私、空から見るヨコハマの景色に憧れてたんだよね、昔から。


フィッツジェラルドの目の前に在ったのは、川端ではなく愛する娘の姿だった。娘が今一度、自分に向かって笑いかけていたのだ。

小さく畏怖した後、フィッツジェラルドは少しだけ自分の娘を抱き締めた。その暖かさに、川端は溺れそうになった。



夜半/1→←夜の底は白く/3



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.6/10 (48 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
78人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

ねむい(プロフ) - イチゴプリンさん» いつもありがとうございます、本当に励みになります、、!これからも何卒宜しくお願い申し上げます! (2018年4月2日 12時) (レス) id: f7d54c694c (このIDを非表示/違反報告)
イチゴプリン(プロフ) - ねむいさんの作る作品はとっても面白くて大好きです!これからも更新頑張ってください!応援してます! (2018年4月1日 13時) (レス) id: 645f74247e (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:ねむい | 作者ホームページ:   
作成日時:2018年3月27日 16時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。