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呱々を上げる/春川宙 ページ8

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 よくある、夏の話。

 カーテンの開く音。窓の開く音。それらから一秒立たないうちにクーラーの効いていた室内にどっと熱気が流れ込んだ。涼しさを残さず持ち去るように頬を生ぬるい風が撫でてまわり、あっと言う間に部屋は熱帯へと変わる。

 遠い昔、人は日が沈むとを太陽が死んでしまったと考えたらしい。
 いつかどこかで耳に挟んだ、真偽もあやふやな情報だったけれど、なぜか私の心の引き出しにいつまでもしまい込んであった。ぐずぐずと何かを溶かすような感触のまま、ずうっと隅にいる。

 けれども太陽が沈んだ寒い世界では生きていくのも苦しいのだろうなあ、なんて、その気持ちはどこか分かる気がして、彼が外の景色を眺めている間感情を手のひらで転がしていた。

「今日の空はすごく綺麗な〜」
「そうなの?」
「はい! 薄くて白いもやがふわーっとかかっていて、砂糖がたくさんかけられたケーキみたいです!」
「ケーキ」
「……それから、下を歩いている人も良い色をしてるな〜。夕焼けみたいなオレンジに、お菓子みたいなほんわかピンクに、綺麗な色がたくさんみえます! きらきらしてて楽しいな〜♪」


 彼の言う「綺麗」が人の感情のことなのか、そうではないまた別の何かなのか、窓の外を見ていない私には分からなかったけれど。

「今日はきっと良い夜になるな〜、HaHiHuHeHo〜!」

 跳ねる彼の声は楽しげだった。











「さっきの話、宙も受けた方がいいと思うな〜」
「え?」

 信じられなくて、姿勢を硬直させる。

 人生を左右するほどの決断も、自分次第だなんて。私には荷が重すぎて、怖くて、そんな荷物投げ捨ててしまいたかった。
 太陽のない世界で生きていけるほど器用じゃなかった。ランタンも、もっと原始的な松明の灯りでさえも、私は持っていなかった。

「リスクを背負うのも実際に命を預けるのも結局私だけじゃない! 誰も、誰にも肩代わりなんてできないし、してくれない! なのに、」

 笑い声は聞こえなくなった。そうしたのは、私。だけど、一度開いた口を止めるほどの理性はなかった。

「どうして?」

 それを一番尋ねたいのは彼だろうに。



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作者名:ねむい | 作者ホームページ:   
作成日時:2019年8月26日 19時

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