◇ ページ29
「A？」
はっと夢から覚めたような感覚がした。突然、黙った私を不思議に思ったのか、彼の顔が間近にあってびっくりした。
「あ、ごめん」
「......顔色が優れてないね。今日はもう休んだほうがいい。後は、僕だけで十分だ」
「え、......いやいや、まだできるもん！ほら、元気だし！って奪わないでよ！！」
宗に奪い取られたものを奪回しようとしたができなかった。言っても聞かないし。.....確かに今日は変かも。らしくもなくいろんな溜め込んだものがのどの辺りまで来てしまった。このままでは、全部吐いてしまうかもしれない。
「分かった......。今日は寝るよ。宗も無理しないようにね。早く寝なよ」
「言われなくても分かってるのだよ」
悪口を言われたことをまだ根に持ってるのか、いつもよりそっけない口調だった。
......明日謝ろう。
そう心に決めたとき、安心したせいで喉まで来てしまった欲望の一部が溢れた。
「.....ねぇ、宗」
宗が顔を上げた。不機嫌そうで、でも優しい顔した君が私を見ていた。
愛してるって言って。口の中で弾けたその音はガラスを叩き割るくらいの衝撃があった。
この言葉は禁句。
言ったら私はショーケースの中から出ることになる。大嫌いな誰かさんと同じように。ショーケースを出ても愛されてる君のように、私は彼に愛される自信はない。
美しくない欲望にまみれた女を誰が重宝しようか。
「おやすみ」
例え綺麗な星空が広がっても心地よい日の光があったとしても、私はカーテンを開けない。君のその顔の方が美しく愛しいもん。
なんでショーケースの中からみんな出て行くの？馬鹿だな。外は痛い言葉で溢れてるのに。ここは綺麗な言葉しかないのに。
死んでも彼が美しく埋葬してくれる。例え、君が私以上に美しいものに魅了されてても、君は私の死に顔を見て、後悔する。美しいものがこんなにも近くにいたのに気づかないなんてお馬鹿ね。
泣いてるあなたを見て笑ってやる、たくさん罵ってやる。あなたがもう誰にも愛している、美しいなんて言わせないように強い強い呪いをかけてやる。
.......あぁ、酷い夜だなぁ。
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作者名：ねむい | 作者ホームページ：
作成日時：2019年8月26日 19時
