胎内回帰/朔間凛月 ページ18
今も昔も大嫌いな時間、生まれた時からきっと死ぬまで大嫌いな時間、ほら、ちょうど今みたいな。ちいさな星屑のついた暗くくらいカーテンを抜けて生まれてきたら、世界はもはやすがすがしい朝靄に包まれていて、やっぱり、俺に優しくなかった。
眠れないさ、眠れるわけないよ。こんなとき、“こわい”みたいな感情が頭の中いっぱいになる。切実に、だけどゆりかごみたいに暖かくて、ちいさな君の手を握ったら、俺はちょっとだけでも満たされるんだろうか。わかんないけどさ、なんか余計に目が冴えちゃったな。
きっかけは、終わってしまう度すっぽりと記憶から消える。今回は確か雨の日のことだった気がする。
外出中突如降りはじめた雨に、避難したコンビニの軒先で、びしょぬれになった君がいた。あ、と思った。あたりはタバコ臭くて、人もたくさんいて、感動的な“再会”とは言えなかったけど。雨粒のもっと奥、ずっと遠くを見据えるような無表情に、干上がる喉の奥から搾り出す。
「……大丈夫?」
「…………なわけない、です」
ずっと表情を変えずに、君はぽつりぽつりと呟いた。覚えてるかな、ひとことひとこと雨にこだまするみたいに響いていたこと。あの日の肌寒さと胸の奥のあたたかさ。
「だろうねえ」
「……」
日焼け止めが落ちて随分と肌がべたつく。空がいきなり怒り出した。君は、今回の君は、雷が苦手な人なのだろうか。はたまた、「私たちだってイライラすることがあるように、空にだって嫌になっちゃう時はある」と豪語した今までの君のままなのか。
あたりが一瞬見えなくなるくらいの光に包まれて、そのときはじめて君と目があった。
「はじめまして」
_____そういえばまだ、言ってなかったですね。ご心配いただきありがとうございます。
ごろごろ、だいぶ近くに落ちたみたいだ、ごろごろ。みしみし、「はじめまして」、ごろごろ。
空はもう割れてしまったのかもしれない。ごろごろ。
「ここら辺に住んでるんでるの?」
「うん、そう」
「そっか、俺も」
親指を拳の中に握り込んだ。きゅっと、まるで赤ちゃんがするみたいに。あたたかい液体の中で揺蕩っているような、そんな心地がする。安心した、安心してしまったんだ。ゆらゆらゆら、心地いいゆらゆら。長い順番待ちの果てにやっと乗れたブランコ、砂がたくさん爪と皮膚の間に入り込んでざらざらした夕暮れ。懐かしく、なってしまった。
世界は、割れてしまったのかも、しれない
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作者名:ねむい | 作者ホームページ:
作成日時:2019年8月26日 19時