結び切り

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結んで開いて、手を打って、結んで。
また開いて、手を打って、その手を上に。


糸は糸切りばさみで簡単にぷつんと切ることができるのに、人と人の縁とはどうしても切ることができないものだ。一度会った人とはどこかで繋がっていて、なんて日本人特有の考え方なんてなければ、もっと楽だったのに。


「 ………っ 」

「 ………あ 」


言葉がまた強さを持って甦る。
体の中をのたうち回って皮膚の下で突き破ろうと蠢いている。一度放った言葉には、魂が宿る。言霊だなんて馬鹿馬鹿しいと思っていたのに、彼女の言葉だってまさに“ それ ”だったから、くるしくてくるしくてたまらない。


「 ……私、別に喧嘩を吹っ掛けようって訳じゃないからそんなに睨まなくても 」

「 だったら、この間のあれは、なんなの 」

「 ほんとのこと、言っただけじゃない 」

「 …は？ 」


どうやらこの女は呆れてしまうほどにまっすぐらしい。知ってる、このまっすぐさを。知ってる、この屈強な女を。どこか知ってる、この、負けず嫌いなひとを。


まさか。会ったことがある訳ない。


「 …朔間くんさあ 」

「 … 」

「 結局、自分がだいすきなんだよ 」

「 …なわけないでしょ、 」

「 はは、うそつき 」


準備された笑顔じゃなくて、ただ単純に鈴を転がしたような自然な笑顔と笑い声で、胸の奥で何かが疼くのを感じた。美人ということも相まって完璧で美しい笑顔だが、発した言葉はやっぱり魂を持って心の中に沈んだ。その真っ赤に色付いた唇で、どうして魂を吹き込むのだ。


「 俺もう仕事だから 」

「 ああ、お邪魔したね。…というか、君が私の邪魔したんだよね？ 」

「 はあ？ 」

「 ごめんごめん、なんでもないから早く行きな 」


こわくて、息が止まったさっきとは少しだけ違って、なんだか他の人といるよりも自然になれた。いや、良い意味ではないのだが。いちいち腹の立つようなことを話すこの女への感情は、恐怖 よりも 興味 の方が大きくなった。

彼女の言葉の意味はわからないまま、ほつれた糸のようにゆらゆら揺蕩っている。けれど俄然、結婚式の時よりかは良い気分である。


後ろを振り向けば、彼女はにこにこと手を振っている。睨みつけるとまた笑う。気持ち悪い。でも、実は捨てられないでいた袋をきっぱりと捨てることができたのも、あの女のおかげだったりする。いや、所為！だ！


結局、自分がだいすきなんだよ


なんだか、まえにも誰かに言われたことがあるなあ。その人の顔も思い出せやしないけれど。


_____結んで開いて、結び目を切る。



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