忘れもの ページ21
混乱したまま、まともに動かない脳で必死に考えたが、ついには押し黙ってしまった。
忘れてる…? 私、何か悟さんと約束してたっけ。
「ひっ…」
左耳にフッと空気が入り込む感覚に、背筋が痺れた。
「あー、やばいなコレ」
震えた悟さんの声。
熱を帯びた吐息が、耳元にかかる。
「ごっ、ごめんなさい、思い出せないです。忘れ、忘れてるって…?」
自分でも情けなるような、震えた声だった。
訪れた沈黙に、怒らせてしまったのかと冷や汗をかく。
でも、私の両手を包んだまま、指で手の甲を撫でられるので、少しばかり安堵した。
「ヒント一、メッセージ。」
「めっせーじ…」
メッセージで約束…約束したこと。
配達で来たご飯は約束通り受け取ってるし…。あれ、本格的に忘れてる? 早く、思い出さなきゃ。待たせてる間、何されるか分からないし。
答えがどうも掘り起こせない私を察したのか、悟さんは「ヒント二は…」と口を開く。
ちゅっ、と左頬に当たった柔らかい感触。止まった思考。
固まった私を置いて、それは着々と頬から首筋へと下ってゆく。次第に、熱い何かがねっとりと首筋をなぞった。
「うっ、ちょっと!」
突飛的な行動に、ますます収集がつかなくなった頭。
重心が傾いてゆくと同時に、嫌な予感が脳裏をチラつく。
ソファに倒れ込めば、足の間に入り込んでそのまま悟さんが覆いかぶさってきたのがわかった。
知らない、こんな約束事知らない。
これは、もしかしたら誰かと勘違いしてるのでは。
でもそんなこと言ったら、確実に仕留められる。命の保証は出来ない、きっと。
ヒント三を要望したいけど、ヒント二でこの有り様なのだから、気軽に頼めたものじゃない。服をめくられたらどうしよう。ベルトを外す音が聞こえたらどうしよう。
逃げれないのは確かだ。前回だって、同じようなことがあった時、どんなに抵抗しても適わなかった。
「ねえ、思い出した?」
やっと首筋に走っていた熱い感覚が引いた。
目の前がチラチラと眩しい。忙しくなった呼吸を何とか落ち着かせようと、必死だった。
「えっ、えっと」
「そ、じゃ次耳でもいっとく?」
「ヒント!ヒントください!」
「えー思い出せないの?」
「ごめんなさい…」
再び訪れた沈黙に、冷や汗が頬を伝った。
今度こそ怒らせてしまったのではないか。
「…ただいま。」
小さく聞こえた言葉にハッとした。
脳裏に浮かんだメッセージ画面。
『でも帰ったらチューさせてね♡』
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松野星月(プロフ) - コメ失礼します!わー、心に来る。続きがますます気になりました!楽しみに待ってます! (5月4日 16時) (レス) @page37 id: 7e5eb61c5c (このIDを非表示/違反報告)
ナミ - コメント失礼します!すごく面白かったです!質問なのですが,この作品は完結でいいのですか?内容的に途中だと思うのですが…もし,続きを書く予定があるのなら続きみたいです!更新頑張ってください(^^) (2023年3月21日 14時) (レス) id: cbde72f558 (このIDを非表示/違反報告)
のんのんた(プロフ) - 一般タコピーさん» 返信遅れてごめんなさい!コメントありがとうございますっっ!!身に余るお言葉ですがめっっっちゃくちゃ嬉しいです(/Д`;💕︎ 不定期になってしまいますが、更新頑張ります!- ̗̀( ˶^ᵕ'˶)b (2022年12月19日 13時) (レス) id: a4f760f5fa (このIDを非表示/違反報告)
一般タコピー - 神作品だ!作者様の文才が素晴らしくて一気に読んでしまいました!更新頑張ってください! (2022年12月15日 18時) (レス) id: e79aa4edc0 (このIDを非表示/違反報告)
のんのんた(プロフ) - あさん» 嬉しいです!!ありがとうございます!私も好きです!!!(唐突) (2022年12月13日 17時) (レス) @page36 id: a4f760f5fa (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:のんのんた | 作成日時:2021年10月4日 4時