・ ページ15
・
「本当にそれでいいのかよ
ここ辞めて、完全に看護の道から離れんのか？」
「それは、」
「心残り、ねえのかよ。」
今のAには
俺のストレートな気持ちも、安い励ましの言葉も
辞めてほしくないなんて感情に訴えかけることも
何も響かないし届かないと思った。
「確かに過去の事は
俺が想像する以上に辛くて忘れられないものだと思う。
だけど、俺には今のお前が
別の事で引っかかってるように見える。」
過去のトラウマから避けているのも勿論あるだろうけれど
それでも根本は、看護系の仕事に就いていたい
そういう思いがあるからこそ叔母の誘いを受けたはず。
「看護教員になれば
再会する可能性だってトラウマの症状が悪化することだって
少し考えれば簡単に想像がつくことなのに」
「それは…その、」
「それなのにAはこの仕事を選んだんだろ？
ちょっとやそっとの意志じゃないことは見てて分かるし
本当はまだ看護系の職で働きたいって思ってるんじゃねえの？」
黙り込むAに、畳みかけるように訴えかける。
Aが自信を無くしてしまう気持ちも十分わかるけれど
こんなにも白衣が似合うやつはいないって
自分が思っている以上に、頑張ってるんだって
ちゃんと知ってほしかった。
「何がAを看護の道から離そうとしているのか
俺にはさっぱりわからない。」
「…。」
「看護師時代の同僚とか学生時代の知り合い
もちろん俺も、辞める必要はないって
心の底から引き留めてるのに、Aだってその意思があるのに
無理くり理由をつけてここから去ろうとする理由は何だよ。」
少しキツイ言い方になっているのに気づき
慌てて言葉を引っ込めるけれど
正面に座るAは、心当たりがあるようで
目を泳がせて眉間に皺を寄せた。
「…私だけ、ここにいていいのかなって。」
「私だけ？」
「宮舘先生、あの日以来会えてないけど
誰よりも患者さんと真剣に向き合って懸命に働いていた先生が
責任を感じて辞めたのに、私は…まだ」
「…A？」
段々と声が小さくなっていって
心配になり顔を覗き込もうとすると
小さく寝息が聞こえてきて肩の力が抜ける。
「普通この状況で寝るか？
気になってこっちは今日寝れねえよ。
…お前らもそう思うだろ？」
そう言って振り返ると
後ろの席で飲んでいた2人が驚いた表情を見せた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1772人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
読者A(プロフ) - いつも ぱくたろうさんのお話を読ませていただいていたのですが私事で久しく占ツクを開けていないうちに新作を作られて完結されていたので2日で一気読みさせて頂きましたが、、、安定にボロボロ泣きました…今回も素敵な作品をありがとうございました。 (2023年1月16日 14時) (
レス) @page39 id: c0ba04e557 (このIDを非表示/違反報告)
ぱぐたろう(プロフ) - 青こなこさん» 最後までありがとうございました！お返事遅くなりすいません。共感していただけて嬉しいです！こちらこそありがとうございました🙇♀️ (2022年12月27日 20時) (レス) id: 7ae9714678 (このIDを非表示/違反報告)
青こなこ(プロフ) - 完結おめでとうございます。ぱぐたろうさんの作品、いつも楽しく読ませて頂いています！私も医療系に携わっていることもあり、患者さんとの関わり方や葛藤など、共感するところが多かったです。素敵な作品をありがとうございました！ (2022年11月30日 22時) (レス) @page39 id: e1d2c6feb7 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ぱぐたろう
| 作成日時：2022年10月21日 19時
