12.現実 ページ13
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いつの間にかセミが鳴き始めている。
あぁ、夏。
実感するより先に、暑さは先を歩いてきた。
うだるような炎天下、
今日も重い頭を誤魔化して走り出す。
「……あんた、ちゃんと寝てる?」
あぁ、うん。睡眠は取ってるよ。
心配かけてごめんね、野薔薇ちゃん。
「漆葉、動き鈍ってるぞ。一回どいてな」
いえ、いえ。真希先輩。
今のは少し油断しただけです。まだ、私はやれます。
「……おかか」
大丈夫です。狗巻先輩。
顔色が悪いのは、ちょっと走りすぎただけですから。
「お前、なんかふらついてないか?」
不注意でごめんなさい、パンダ先輩。
昔から、よく何もない所でつまずくんです。
「……A。
そろそろ、休んだらどうなんだ」
大丈夫。大丈夫だよ、恵。
私は十分休んでるから、心配しないで。
時間が惜しい。
早く、早く、強くならなきゃ。
強く、強くなって、あの子のぶんまで───
「__A」
『っ、! ……あ、
────ごじょう、せんせい?』
お久しぶりです。
任務じゃなかったんですか。
どうしてここに。
……言葉には成らない。
珍しく笑っていない先生が
数歩先で仁王立ちになっていた。
「A、休んでる?」
頷く。
すると、先生は
これ見よがしにため息をついて。
「嘘、ね。じゃあ、これは没収」
一歩半。あっという間に距離を詰める。
流れるようにトレーニングナイフを取り上げた。
『…! まっ、て……!』
伸ばした手。
取り返す前にパシッと手首を掴まれる。
「ダーメ。休んでないでしょ、A」
『やすんで、ます』
嘘じゃない。
『ちゃんと、睡眠も、食事も……。
でも、たりないんです。時間が、たりなくて。
強くならないと、いけないのに』
「A」
『つよく、なって。戦わ、ないと』
──あの子の、ぶんまで。
目が眩む。
真夏の日差しを照り返す運動場。
見慣れた色彩が、
霧を被ったようにかすみ始める。
チカ、チカチカ、と不規則な点滅をしていた世界。
それが唐突に、シャットダウンされた。
『……あ、れ。
五条、せんせ、い?』
次いで体が、立て直しが効かないくらい傾く。
重力がねじ曲がって、
『どこ、に───』
前触れなくブレーカーが落ちたみたいに。
フッと何もない暗闇に包まれた。
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Sn(プロフ) - プスメラウィッチさん» コメントありがとうございます。五条悟オチです。長めのお話になる予定なので、頑張って完結させたいと思います。 (2021年8月26日 22時) (レス) id: 812f073419 (このIDを非表示/違反報告)
プスメラウィッチ - 初めまして、この小説は五条悟オチですか?できれば五条悟オチでお願い出来ますか?続き頑張って下さい。応援してます。 (2021年8月25日 23時) (レス) id: 6c0ddf792c (このIDを非表示/違反報告)
Sn(プロフ) - Spicaさん» ありがとうございます。励みになります。 (2021年8月25日 14時) (レス) id: 812f073419 (このIDを非表示/違反報告)
Spica(プロフ) - とても面白いです!続き期待してます! (2021年8月25日 14時) (レス) id: 68c958f74e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Sn | 作成日時:2021年7月24日 16時