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「さ、簡単なものしかないけどどうぞ召し上がってね」
「はい。ありがとうございます」
出された食事は、バランスの取れた豪勢なものだった。
いただきます、と挨拶をして口にすれば、温かいそれが優しい舌あたりで喉を伝っていく。
「美味しいです。とても」
「そう。よかった。あの子がいなくなってから、どうしても作りすぎちゃうのよ。だから、あなたが一緒に夕飯を食べてくれてよかったわ」
作りすぎちゃう、と話す机上の食事はどれも沢山用意されていた。
食べ盛りの男子中学生だ。いつもこの位用意していたのだろうと考えると、母の努力のようなものが見えて切なくなる。
一口、二口と、談笑を交えながら進む箸を止めた。
私の隣に立って離れない場地くんは、話す人間もいなければすることが無いのが暇なのか、つけっぱなしにされているテレビを見ている。
場地くんに「ねぇ」と話しかければ、そこで初めて気が付いたみたいにこちらを見た。
「…なんだよ」
「一緒に食べよう」
テレビにかき消されるくらいの音量でそう告げて、半ば無理やり場地くんに触れる。
一瞬白む脳に目を細めれば、次第にもう多少慣れてしまったあの感覚がやってきた。
突然空を掴んだ私に、お母さんは不思議そうな顔をしている。
彼女の口から何か疑問が飛ぶ前に、場地くんは勢いよく茶碗を掴み上げて米を口に放り込んでいった。
私の体だから、きっと戻った後に胃が破裂するんだろうなと心のどこかで思いながら、それでも笑っちゃうくらい母親思いで優しい場地くんを感じて心の底から嬉しい。
誰が見てもわかるくらいの驚愕の表情を浮かべたお母さんは、一拍置いて幸せそうな笑顔浮かべて笑い出した。
「あら、まぁまぁまぁ…圭介みたいに食べっぷりがいいのね。お夕飯誘ってよかったわ。いくらでもあるから沢山たべ、」
「オフクロ」
「え？」
「いつもうめぇ飯、さんきゅーな。オレはオフクロの飯が一番好きだ」
言葉を失ったお母さんを前にして、残りの米をかきあげる。
そのまま行儀悪く口元をぐい、と拭った瞬間、意識ははっきりと私の支配下とやってきた。
決して長くはできない憑依時間に全てを腹に詰め込んだせいか、妙にお腹が重たい。
私の体なんですけど、という抗議を込めてじとりと睨めつけても、特に反応もなければ改善する様子もないようだ。
「…」
「ご、ごめんなさいお母さん！すごく、食い意地が…」
咄嗟に頭を下げれば、お母さんはにこやかに首を振った。
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よぞら(プロフ) - 本当に素敵な作品をありがとうございました。もう最後の2人のデートで涙が止まらなかったですし、触れられない…体温もわからない…って切なすぎてずっと泣いてました(泣)本当に大好きです。ありがとうございます!! (2021年10月14日 1時) (
レス) @page31 id: 1a17489b7d (このIDを非表示/違反報告)
仁日 - 完結前なのにもう泣いた。文章能力高過ぎです。ゴイザラス。どうしようド性癖過ぎて完結したら暫くのたうち回る未来しか見えない。大好きです。愛してます。 (2021年10月12日 8時) (レス) @page15 id: 9efffd34d8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：晴海 | 作成日時：2021年10月7日 21時
