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【55】 ページ9

「場地くんって猫飼ってたの?」
「あ?なんで」
「猫用の道具とか結構置いてあるから」

今隣にいる場地くんよりも一回りも二回りも小さい場地くんを眺めて一息つく。
私が投げかけたのは純粋な質問だった。
猫用品はいくらか置いてあるのに、肝心の猫の姿は先ほどから見当たらない。
きょとんとする場地くんが、あー、だの、うー、だのと言っていると、突然何かがカリカリと音を立てて窓を引っ掻く音が聞こえてそちらに視線を移した。

猫。
首輪もしていないし、所々汚れているところを見ると野良猫なのだろう。
何故か猫がいることに一瞬首を傾げて、それから場地くんの部屋を思い出して点と点が線で繋がった。

「あいつが来てたんだよ。来たら餌とかやってたってだけ」
「じゃあ場地くんがいなくて寂しいのかもしれないね。…これお母さん知ってる?入れて大丈夫?」
「オフクロもわかってっから入れて問題ねえぞ。窓開けてやってくれ」

部屋の主の了解をもらって窓を開ける。
黒猫はにゃあん、とひと鳴きすると、甘えたように私の足元にすり寄ってきた。
人懐っこい子らしい。
場地くんにもこうだったのかと聞けば、おう、と何処か誇らしそうに返事を返す。
猫と戯れれる場地くんなんてかなり絵になるんじゃないだろうか。

場地くんに教わるままに猫に餌と水を与え、小さな舌でちろちろとそれらを味わうさまを眺める。
こりゃあ場地くんもメロメロになるはずだ。
隣にいる場地くんの表情が既に甘い。

「場地くん」
「なんだよ」
「場地くん、やっぱりいい人だね」
「今さら変なこと言うのやめろよ」
「お腹すいて車にガソリンまいて火つけたりするけど」
「待て、誰から聞いた」
「ないしょ」

教えろ!とぐい、と顔近づけてくる場地くんに、やめてやめてと笑いながら抵抗して
そこで、は、と気が付いた。

突然縮まった距離に心臓が痛いくらい鳴って、我に返ったように顔が熱くなる。
場地くんも口を二、三度はくはくと動かして、それからのけぞるように体を離した。

「わ、悪い」
「や、別に」

生ぬるい空気が流れて、唇をぎゅっと引き結ぶ。
ぱたぱたとどれだけ手で仰いでも顔に集まった熱が引く様子は無い。
扉越しに「ご家族とご連絡で来た?」と投げかけられた言葉に辛うじて「はい」と返せたものの、きっと今すぐ見せられるような顔はしていないのだろう。

「なんか、偶に勘違いしそうになるな。オレも生きてるって」

捨てるように紡がれた言葉は、泣きたくなるくらい悲しかった。

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よぞら(プロフ) - 本当に素敵な作品をありがとうございました。もう最後の2人のデートで涙が止まらなかったですし、触れられない…体温もわからない…って切なすぎてずっと泣いてました(泣)本当に大好きです。ありがとうございます!! (2021年10月14日 1時) (レス) @page31 id: 1a17489b7d (このIDを非表示/違反報告)
仁日 - 完結前なのにもう泣いた。文章能力高過ぎです。ゴイザラス。どうしようド性癖過ぎて完結したら暫くのたうち回る未来しか見えない。大好きです。愛してます。 (2021年10月12日 8時) (レス) @page15 id: 9efffd34d8 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:晴海 | 作成日時:2021年10月7日 21時

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