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「どちら様でしょうか」
投げかけられた声色が優しかった。
一瞬緊張が走って、それからこの日が来るまで何度も脳内で練習した第一声を放つ。
場地くんの友人です、と紡いだ言葉に、息を吞むような音が聞こえて口を閉ざした。
少しの静寂の後、「少し待っていてくださいね」と、優しそうな声が聞こて、それから数分もしないうちに扉が開く。
どちらかといえば気の強そうな風貌の場地くんとは違い、どこか柔らかい雰囲気の女の日人だった。けれど確かに場地くんの面影を感じて、この人が隣で気まずそうに頬を掻く男の母親その人なのだと理解する。
「こ、こんにちは。ご連絡もなしにすみません」
「いいのよ。気にしないで。男の子は今までも来てくれてたんだけどね。女の子のお友達は初めてだわ」
「友達、多いですもんね」
「そうなの。…あぁ、寒いでしょう？立ち話もなんだから、どうぞ上がっていって」
ありがとうございます、と頭を下げて足を踏み入れたのは、場地くんの表情が懐かしいものを見るときのそれだったからだ。
まだ亡くなって半年も経っていない。
きっとここに残してきたものも多いだろうと。
リビングらしい場所まで通されれば、常温のお茶とお菓子を幾つか用意してくださった。
こんなものしかないけれど、と話すお母さんにいえ、と首を振って、早速お茶をいただいた。
「それで、その…今日はどうしたの？お線香、あげにきてくれたのかしら」
「あ、はい。それは、もちろん。」
場地くんはそんなだるいことしなくていい、と大きな声で私に言っていたけど、私は正直最初から線香だってあげて帰るつもりだったからそれでいい。
それよりもっと、今日は渡すものがあってやってきたのだから。
黙りこくる私を不思議そうに見つめるお母さんは、場地くんと同じ顔をしていた。
あぁ、親子だなあ。小さく笑いが零れる。
鞄に大切にしまっておいた一枚の手紙。
黒地に金と赤のラインが控えめにはいったそれは、どこか場地くんを感じさせた。
その手紙をそっと机の上に差し出せば、目の前のその人は不思議そうに首を傾げる。
「場地くんから手紙、預かってきたんです。今日は私、それを届けにきたんですよ」
私の口から紡がれた言葉に、信じられないとでも言いたげに目を見開く彼女にゆるりと笑って見せた。
震える指先でそっと手紙を手にして封を切る。
手紙を開いて文字を追うその瞳は揺れ、時折涙のようなものが頬を伝う。
場地くんは、それを、じっと見つめていた。
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よぞら(プロフ) - 本当に素敵な作品をありがとうございました。もう最後の2人のデートで涙が止まらなかったですし、触れられない…体温もわからない…って切なすぎてずっと泣いてました(泣)本当に大好きです。ありがとうございます!! (2021年10月14日 1時) (
レス) @page31 id: 1a17489b7d (このIDを非表示/違反報告)
仁日 - 完結前なのにもう泣いた。文章能力高過ぎです。ゴイザラス。どうしようド性癖過ぎて完結したら暫くのたうち回る未来しか見えない。大好きです。愛してます。 (2021年10月12日 8時) (レス) @page15 id: 9efffd34d8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：晴海 | 作成日時：2021年10月7日 21時
