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明けない夜がほしかった。
朝起きたら、ベッドの隣で不機嫌そうに眉間に皺を寄せて眠そうにしていた人。
『眠いの？幽霊なのに？』
『眠いに決まってんだろ。オマエ睡眠時間短すぎンだよ』
弟たちの様子だって見てくれて、声なんて聞こえないのに起きないように、小さな声で私に教えてくれた人。
『おい…！起きてんぞ…！でも全然起き上がら…あっ、智が起こしてんな…』
『場地くん声ちっさ』
私の世界を広げてくれた人。
色々なことに気づかせてくれた人。
『オマエ、すげぇな。誰にでもできることじゃねぇよ』
母親思いで、動物好きで、ちょっぴり…というか、かなり乱暴だけど、憎めない人。
「姉ちゃんおはよう」
「おはよぅ」
『おはようだってよ、姉ちゃん』
「…おはよ、智、尚」
そんな人は、もういない。
あの後、どうにか涙を拭って私は帰宅した。
泣きはらしてぼろぼろになった私を見て弟たちが心配しないように、顔は見せないまま浴室に直行したのが記憶に新しい。
父は様子のおかしい私に気が付いていたみたいだけど、思春期の娘を気遣ってか何か言ってくるということはなかった。
そして、浴室の鏡で額を確認して、例の傷が綺麗に消えているのも確認済み。
夜だというのに人ならざる者の類に全く遭遇しなくなったのは、この額の傷が綺麗に消えてしまったからだろうか。
仮定を立てるにはあまりにも非現実的だけれど、今はそれを深く掘り下げられるような心の余裕は無かった。
「姉ちゃん、大丈夫？元気ない？」
「ン〜？姉ちゃんは今日も元気だよ。ほらっ、ご飯食べたら歯磨きしておいで！」
きゃあきゃあと高い声を出しながら、洗面台に走っていく弟たちの背中を眺める。
場地くんがいなくなってから、なんだか頭の中がふわふわしているような感覚を覚えた。
最期に交わしたファーストキスの感触なんて知らないし、彼の唇がどのくらい熱を持っていたかだってわからない。
私のファーストキスは、そんな感じ。
恋愛の話で延々と話せるであろうクラスメイト達に、私の初恋は幽霊なんです、なんて言ったら、笑われるだろうか。
嘲笑うみたいに進み続ける秒針の指す数字を見て腰をあげる。
一日中墓石に縋りついて泣きたい位なのに、きちんと健康な私の体がそれを許してくれない。
「姉ちゃん学校行くから、遅刻しないように行くんだよ〜！」
「はぁい」
「いってらっしゃい」
視界に映る世界が褪せて見える。
鉛のような足を引きずって、いつもの道を歩いた。
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よぞら(プロフ) - 本当に素敵な作品をありがとうございました。もう最後の2人のデートで涙が止まらなかったですし、触れられない…体温もわからない…って切なすぎてずっと泣いてました(泣)本当に大好きです。ありがとうございます!! (2021年10月14日 1時) (
レス) @page31 id: 1a17489b7d (このIDを非表示/違反報告)
仁日 - 完結前なのにもう泣いた。文章能力高過ぎです。ゴイザラス。どうしようド性癖過ぎて完結したら暫くのたうち回る未来しか見えない。大好きです。愛してます。 (2021年10月12日 8時) (レス) @page15 id: 9efffd34d8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：晴海 | 作成日時：2021年10月7日 21時
