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【66】 ページ20

ペンギンという生き物はよたよたと歩くものだと思っていたけれど、実際見てみると存外威風堂々とした立ち居振る舞いだった。
飼育員さんに連れられながらも胸を張って行進を続けるペンギンに、思わず場地くんと共に感嘆の声を漏らす。

「見ろ、多分あいつがボスだ」
「ペンギンにボスとかあるの?」
「しらねぇ」

その中でも特に眼光が鋭いペンギンを場地くんは指さす。
曰くボスだそうだが真相はわからない。

その後も、小柄な子に寄りかかられているペンギンを指さしては「あれはドラケン」と名付け、他の子のお腹をだむ、とその短い足で蹴りつけた子を見ては「マイキーだ!」と興奮気味にペンギンたちを自身の知り合いに当てはめていった。
私も言葉を交わしたことのある人たちの名前があがるのが楽しくて、名前を当てはめながらはしゃぐ場地くんを眺める。
すると、場地くんは一度私の顔をじっと見つめて、それから一匹のペンギンを指さした。
そのペンギンは、列からぽつんと外れながら、自分のペースでゆるゆると歩いている。
意味ありげに顔を見られたのもあって、まさか、とは思ってはいたが、場地くんはきれいにその予想を当てるように「あれはオマエ」と笑いながら言い放った。

「…、悪口?」
「ちげぇよ、ひねくれてんな。あいつ、マイペースだけど一所懸命だろ。そういうところ、オマエに似てる」

歩くのがへたくそなのか、ぺちぺちと足音を立てながら、ばたばたと前に進むペンギンを二人で見守る。
確かに少し遅れていたけれど、最後は無事にほかのペンギンとも合流することができたみたいだった。

似ていると言われたせいもあるが、温かく見守っていたペンギンがうまく仲間に混ざることができたようでほっとする。
場地くんも同じようなことを考えていたようで隣から聞こえた息をつく音に、顔を見合わせて笑った。

「よかったな」
「ね」

行進は私たちの前を通り過ぎ、次第に姿が見えなくなる。
それでもいなくなった方向を眺め続けていたのは、きっとそこに余韻が残っていたからだ。

「オマエも」
「なに?」
「多分、オレがオマエから見えなくなっても、オマエはオマエで、絶対ダチとかできっから」

瞬間、突き落とされるような感覚に眩暈がした。
場地くんはただ私の背中を押してくれただけかもしれないのに、勝手に傷つく自分が情けない。

「はは…だといいけど」

無理やり笑ってみせる。
場地くんの目に映るのが、普段通りの私でいてほしいと、心底思う。

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よぞら(プロフ) - 本当に素敵な作品をありがとうございました。もう最後の2人のデートで涙が止まらなかったですし、触れられない…体温もわからない…って切なすぎてずっと泣いてました(泣)本当に大好きです。ありがとうございます!! (2021年10月14日 1時) (レス) @page31 id: 1a17489b7d (このIDを非表示/違反報告)
仁日 - 完結前なのにもう泣いた。文章能力高過ぎです。ゴイザラス。どうしようド性癖過ぎて完結したら暫くのたうち回る未来しか見えない。大好きです。愛してます。 (2021年10月12日 8時) (レス) @page15 id: 9efffd34d8 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:晴海 | 作成日時:2021年10月7日 21時

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