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「とりあえず熱測って。」
仕事終わり、まだ別の撮影があるという紫耀を残して、俺は宣言通り君を迎えに行った。
タクシーに乗るなり"ごめんね"と謝る君に、冷たいかもしれへんけど俺は、
"話は家着いてから"
とだけ言い、その後は君の家に着くまでただただ沈黙が続いた。
初めて入った君と紫耀が暮らす家。
初めて入った君の部屋。
キレイに片付いていて、ドレッサーがあるのが女の子らしい。
けど、どこか寂しく感じたのは、隅に置かれた"弾いてもらえないギター"が目に入ったからやろう。
「何度やった？」
「…36度8分。」
「…」
勝手がわからないキッチンで、なんとか適当なコップを探し、買って来たポカリを注いで君の部屋に戻ると、
告げられたのは予想外に低い体温。
不思議に思った俺は、枕元に置かれた体温計を手に取りスイッチを押す。
殆どの体温計についているであろう電源を入れると前回の計測結果が表示されるこのシステムに、俺は初めて意味を感じた。
「…ホンマ怒るで？」
「はい…ごめんなさい…」
目に入った38.2という数字に、心配を通り越して怒りに近い感情が湧いてくる。
「なぁ、バイト辞めたら？」
「え、なんで…？」
「体調悪いのに代わり見つからんから休めへんとかおかしいやん。」
「今日はたまたまだよ。
夏休みで旅行ったり帰省したりしてる人が多かったから…」
「…でも帰りが遅い。10時とか遅すぎやろ。」
「終電まで働いてる女の子も何人かいるもん…」
「そういう子もおるとしても、俺はAにそんな遅くに一人で外歩かんといて欲しい。」
じっと目を見てそう言うと、君は気まずそうに目を逸らし、そのまま何も言わずに布団に潜り込んでしまった。
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作者名：P | 作成日時：2018年9月19日 22時
