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【紫耀】
「ちゃんと寝てなよ？」
「うん、わかった。」
「ヨーグルトとゼリーとアイス買ってあるから、食べられそうだったら食べて？
林檎も剥いてあるから。」
「ありがと。」
「掃除とかすんなよ？」
「それ廉君にも言われた。」
「…俺が廉と同じこと言ったんじゃなくて、廉が俺の言おうとしてることパクったんだからな？」
「はいはい。」
世間ではどうやら夏風邪が流行っているらしく、診察に会計、薬局までどこもかしこも混雑していたせいで、あっという間に時計の針が12時を回ろうとしている。
帰宅するなり某料理アプリで調べて作ったお粥を、Aはおいしいと言ってくれたけど、
食欲があまりないみたいで、半分も食べられなかった。
「じゃあ俺仕事行くけど、なんかあったら遠慮なく連絡して？」
ベッドに横になったAに、首元まで丁寧に布団を掛ける。
「うん。紫耀、本当に色々ありがとね。」
「なんだよ、改まって。こんくらい普通じゃん。」
「なんか…こんな風に誰かに看病してもらうの、久しぶりだから…」
そう話すAの目は、確かに目の前の俺を映しているのに、どこか遠くを見ているみたいだ。
何を見てる？
誰を見てる？
"そのうち彼奴も男をつくって、家の事は一切やらなくなった。"
ふいに蘇る父さんの言葉。
久しぶりだと感じるくらい長い間、Aは看病をしてもらえる環境にいなかった…のか。
「これからはAが風邪ひく度に、こうやって看病するからな。」
そう言った後、Aが苦しんでいることにずっと気付けなかった悔しさが、また一気に溢れて出てきて、思わず唇を噛みしめた。
「ありがとう。風邪ひくのも悪くないね。」
「バーカ、あんま心配させんな。」
「はい。早く元気になるよう努めます。」
「じゃあ行くな？」
「うん、行ってらっしゃい。」
ベッドから弱々しく手を振るAの頭を軽く撫で、部屋を出ようとすると、
クローゼットの前に置いたままのギターが目に入る。
もう2ヶ月は経つだろうか？
Aがずっとギターに触れていないことは気付いている。
前は毎日のように持ち歩いて、家でもよく弾き語りをしていたのに。
最近は鼻歌さえも聴かなくなった。
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作者名：P | 作成日時：2018年9月19日 22時
