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「えー…喉から、鼻から、熱から…どれにする?とりあえず熱か。熱やな。」
君の枕元に持ってきたのは、クローゼットの奥にしまい込んでいた救急箱と水。
「廉君一人暮らしなのに、こういうのちゃんと用意しててえらいね。」
消毒液に絆創膏、湿布、頭痛薬、胃薬、痒み止め…おまけにピンセットまで揃えられた救急箱を横目で見ながら、君は感心したようにそう言うけれど、
「そうやろ?
って言いたいとこやけど、一人暮らしする時におかんが置いていっただけやねん。」
正直使うのは今日が初めてで、
頑なに「こんなんいらん!」を繰り返す俺を無視して、強引にこれを置いていった母親に今は全力で感謝したい気分や。
「いいお母さんだね。」
「そう?世話焼きなだけやで。」
「廉君のこと想ってるから世話焼くんだよ。」
ポツリと返された君のその言葉はやけに重みがあって、
「そう…やな…」
俺はぎこちなく頷くしかできひんかった。
"ママがね、私と紫耀が仲良くしてるのが気に入らないみたい…"
"ママの八つ当たり…なんだと思う…"
思い出す、君が話していた"ママ"のこと。
捻れてしまった愛情は憎しみに変わり、君を酷く傷つけた。
時々君が醸し出す独特の儚さは、その痛みから生まれたんかもしれへん。
「よしっ!とりあえず薬飲も?起きれる?」
「うん。」
君の背中に手を当てながら思う。
大丈夫。
Aの傷が癒えるまで、
いや、傷が癒えてもずっと、
ずっと俺はAに世話焼き続けるから。
「じゃあちょっと眠り?」
だから安心して俺の側で眠ってよ。
「うん。おやすみ…」
「おやすみ。」
君の瞼が閉じたのを見て、床に座ったまま腕に顎を乗せてそっと寝顔を見つめる。
名前すら知らなかった君が、今俺の目の前で無防備に寝てる。
不思議。
でも心配。
でも幸せやな、やっぱり。
そんなことを考えているうちに、俺にも睡魔がやってきて…
あ、紫耀にラインしといた方がええよな。
なんて送ろ?
とりあえずこれ見たら連絡して?
もっと詳しく書いといた方がええ?
うーん…
…
結局一言も送ることなく寝落ちしてしまっていた俺は、手に取った携帯の画面をみた瞬間、心臓が飛び出そうになった。
「やっば…紫耀からめっちゃ電話かかってきてる…」
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作者名:P | 作成日時:2018年9月19日 22時