穿つ泥【上】 ページ4
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糸をたぐるように過去のことを思い返すことは簡単である。嫌な記憶ほど頭に残っているからだ。つまりそれは、私の小学生時代は嫌なことしかなかったということを示す。
幼さの抜け切らぬ十一を迎えた冬の事である。周りの友人が携帯を持ち始めたこともあり、その年の誕生日はスマートフォンを貰った。真新しい黒光りするボディーを友人に見せた時、その子は可愛らしい二重を更に濃くさせて感嘆の息を漏らした。次々に他の子も私の携帯を見ては褒め称えるので、特出して出来ることが無かった私は、自分が開発したわけでは無いけれど優越感に浸っていた。
けれど、先生に内緒で学校に持ち込んでいたことがいけなかったのであろう。私の周りに出来たざわめきを、水晶を斬るが如く澄んだ言葉が文字通り、切り刻んだ。
「学校に持ってくるのいけないんだよ。前に先生が持ってきた人からは没収だって言ってた」
声の主は百瀬ちゃんだった。風向きがはっきりと変わり、私を取り囲む子達はぷつりと話をやめる。百瀬ちゃんは満足気に頷くと、教室の隅から隅を舐め回し、最後にその鋭い瞳で私を捉えた。
「ほら、みんなもそうだって」
百瀬ちゃんの父親はこの片田舎では有名な企業の社長さんである。母親は父親の補佐をしているらしく、一度誕生日会に招待していただいた時にお邪魔した家は、まるで物語に登場する白塔であった。誕生日会にはプレゼントを持参することになっており、普段は一ヶ月に五百円しか貰えなお小遣いも百瀬ちゃんにプレゼントを買いに行くとお母さんに言うと血相を変えて素早く五千円札を握らせてくれたのを覚えている。
私の周りに集まっていた子たちは百瀬ちゃんの言葉を皮切りに次々とそれぞれの席に座り始める。百瀬ちゃんの濡れ羽色の髪が蛍光灯に照らされてキラリと光る時、私はどうしようもなく負けたと感じた。
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九条あや(プロフ) - のばらさん» ありがとうございます！そう言っていただけて嬉しいです(*^^*) 次回作も頑張りますね！ (2019年1月16日 22時) (
レス) id: 32ff1c1e1c (このIDを非表示/違反報告)
のばら(プロフ) - 上手いことは言えないのですが、凄く面白かったです！ (2019年1月16日 21時) (レス) id: 6840145f54 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：九条あや | 作成日時：2019年1月5日 17時
