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「Aちゃんこっちこっち」
きゅうと繋がれた手を引っ張られて、連れてこられたのは米花町。
大先輩に手を繋いでもらえる日が来るなんて、思ってもみなかった。
ヨーコ先輩の手、めっちゃふにふに。
「眠りの小五郎って知ってる?」
『少しだけ、なら…』
「Aちゃんの探してる人、毛利さんならきっと見つけてくれると思うの!」
丸っこい目があまりにも可愛らしくて、彼が死んだと聞かされていることはいえなかった。
彼が死んだことが、今もまだ受け入れられないわけじゃない。
だけど、死んだ彼をこの目で見ずに、どう信じろって言うんだ。
もしかしたら、もしかしたら、そう言い聞かせて今まで生きてきた。
彼に会えるならなんでもする。
彼を一目見れるなら。
だけど、今、彼が本当に死んでいるとわかったら、その時私はどうすれば。
ずくりと大きくなった不安が足の幅を狭める。
ポアロ、と書かれた喫茶店を通り過ぎ、すぐ横の階段を上がる。
「つーいた!」
『せ、先輩。無理ですよう。やっぱりやめません?
私まだ、心の準備とか、えっちょっと先輩待って』
私の声なんて気に留めず、先輩は繋いでいる手とは反対の手でドアをノックする。
はーい、と可愛らしい女の子の声が聞こえてガチャリとドアが向こうに開いた。
「毛利さん、お邪魔します!」
「ヨーコちゃん!!!」
目の前にいる鼻ののびたこの人が、まさか毛利探偵だとは言わないでほしい。
見たことはある。テレビで何回か。
でも、テレビで見たそれとは、なんと言うか、その、緩い。緩すぎる。
どうぞ、と先ほどの声の主であろう女の子が事務所に招き入れてくれる。
足元には小さな男の子。
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「えっ!うわあ...!本物のAさんだ..。
ドラマ見てます!!あの役、すっごく色っぽくてきれいだけど、生で見ると可愛らしいんですね!」
『あ、ありがとうございます。』
「僕も見てるよ!お姉さん、すっごく綺麗だよね!
ところで...用があるのはお姉さんの方でしょ?
ねーえ!僕将来探偵さんになりたいんだ!おじさんみたいな名探偵!
よかったらお姉さんのお話、僕にも聞かせてくれないかなあ」
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作者名:睡眠ちやん | 作成日時:2018年9月13日 22時