水色

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『今から帰るで〜』

メールが来て30分。
そろそろしげが帰ってくる。
キッチンで煮込みハンバーグを火にかける。

と、その時、チャイムがなった。



「おかえり」

そう言おうとしたのに、声が出なかった。
そこにいたのは、一番会いたくて、一番会いたくない人やったから。


「やっと見つけた」

優しい顔で、俺のこと見つめて、
ゴツゴツとした大きな手が、ほっぺにふれる。

求めてた、はまちゃんの感触。

「は、まちゃん…」

これ以上目を合わせたらあかん。
振り払って、半分反射的にドアを引く。



“神ちゃんのために鍛えとんねん”

細いのに実は力が強いハマちゃん。何度もさわらされた割れた腹筋を感触を、嫌でも思い出してしまう。


愛おしい気持ちを振り払う。
この人から大切なものを奪わないために、ここまでしたんやから。
俺は絶対、戻らない。
心の中で、もう一度強く誓う。


「俺はもう帰らへん。店にも、ハマちゃんのとこにも。」
「嫌や。神ちゃんがおらな、あかんねん。なぁ、お願い…帰ってきて、」

視界の端で、エレベーターからしげが現れたのが見える。

しげには、ハマちゃんのこと…好きな人が男やってこと、まだ話せてへんのに。

軽蔑されるかもしれない。



…しげにだけは見られたくなかった。



明らかに普通じゃない俺らの間の空気。だからと言ってハマちゃんをうちに入れるわけにはいかへん。
ここで追い返さないと、俺、またハマちゃんの胸に飛び込んでしまうから。

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