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転機が、来た。
急のように思えたが、そんなことはなく。ずっとずっと積み重なってきたものが、突発的にではなく、計画的に、故意的に大崩落を引き起こしたのだ。
「グリーン、逃げるぞ」
レッドが言った。真剣な顔だった。この箱庭から、本気で逃げ出そうとしているらしかった。望津璃染邦はそれに対し、は? と怪訝そうに目を細め、それから冷笑してみせた。冗談で言っていたら、こんな反応はしなかった。
「逃げることに同意したやつはもう全員準備が出来てる。おまえも行くだろ」
「……おいおい、行くわけないだろ。大人しく人間たちが逃がしてくれるわけもないのに。馬鹿じゃないのか?」
「馬鹿でもなんでもいい。けど、いつまでもこのままでいいわけねえだろ。俺たちにだって心がある。自由に生きる権利がある!」
「その自由を手に入れるために、一体何人が死ぬんだ」
「……」
「今まで脱走を企てたやつは、全員酷い目にあってる。集団脱走ともなればきっと罰もその比じゃない。……逃げようとせず大人しくしてたやつらだって、巻き添えを食らうはずだ」
望津璃染邦の母親は、三年前、脱走しようとしたのを人間に見つかって、塀から足を滑らせ落下死した。死体を目にした訳でもないし、話でしか聞いていないからそれが事実かどうかは知らないが、少なくとも望津璃染邦はそう聞いている。そしてそのせいで、息子である彼も、自由を制限され、苦しい日々を過ごした。
レッドは表情を変えず、じっとこちらを見つめている。何を考えているのか読めない瞳。だがしかし、望津璃染邦が言ったことは彼も織り込み済みで、それでも意志を曲げる気がないということは理解した。長い付き合いだ。それくらいは簡単に察せられる。
レッドは、レッド達は、リスクと犠牲を飲み込んで、それでも解放を望んでいた。いつから準備していたのか。いったい、いつから。
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