猿芝居 (ページ16)

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時が経つ。様々なものが、変化していく。
単刀直入に言おう。望津璃染邦は、今、押し倒されていた。あのいい子の望津璃染邦が、である。
理由は、諸々を端折ると〝望津璃染邦がイスカリオテであるから〟、になる。

望津璃染邦がいい子にしている理由は、ある程度の自由というものを手に入れるためだ。人間に従順であれば、要望次第で欲しいものを与えられた。そして望津璃染邦は本が欲しかった。だからその日も、近くにいた新しい管理者である人間に、そう伝えたのだ。
そうしたら。

「本？＿＿ふざけんな、なんでてめえなんかにそんなもんやらなきゃならねえんだ！！」

くしゃりと歪んだ、まだ幼さの残る顔。
あ、これは……と察した時にはもう、人間の顔はすぐ目の前にあり、そのまま両肩を強く押され床に倒れた。馬乗りになられて、まずは顔に一発。眼鏡が飛んでいく。あーあ……。

「俺の父さんは、誰もに愛される小説家だった！なのに、悪魔に殺された！！」

怒鳴る人間。本を書く父を殺した悪魔。その子どもが、のうのうと本を読むことを許せるはずがないのだと。人間はそう続けてふうふうと獣のように呼吸する。

それをぼうっと眺めて、望津璃染邦は思った。
いや、それ＿＿＿。

「いやそれ、俺たち関係ねーじゃん」
「……は？」

自分の心の内をそっくりそのまま抜き出した音が、ぽつんと落ちる。はっと視線をずらせば、レッドが仁王立ちしていた。人間が振り返る。そしてその瞬間を狙っていたかのように、レッドが拳を振りかぶり。

「＿＿俺たちは誰も殺してない。履き違えんな、バーカ」

鈍い音と共に、人間が呻き声をあげる。
あーあ。あーーーあ。望津璃染邦は深いため息を吐いて、眼鏡を拾い上げた。レッドはこういうところが馬鹿なのだ。自分が言ってもいいことなんてないから口にしなかったことを、わざわざ吐き捨てて。レッドが同じ立場だったら、絶対に言わなかったくせに。ああ、馬鹿だなあ……。

その後、片目を大きく腫らしたレッドにピンクが叫んで、パープルは話を聞いて大笑いしていた。殴られた人間の顔が見たかった。さぞスカッとしただろう、と。レッドも笑っていた。
望津璃染邦は、呆れていた。