月皇遥斗の話 ページ3
MC「月皇くんは尊敬してる人とかいるの？やっぱりお父さんとお母さん？」
遥斗「もちろん両親のことは尊敬してますよ。それに華桜会の同期のことも。でも一番はどちらでもないんです。」
MC「へー！ズバリそれは誰？」
遥斗「実は今何をやっているのか分からないんです。不用意に名前は出せないのですみません。」
遥斗「ただ、その人の存在が僕の役者人生を大きく変えました。それ程までに素晴らしい役者だったんです。」
この日、月皇遥斗はバラエティー番組に出演していた。高校1年の綾薙祭を最後にスター枠を__綾薙を__去ってしまった彼のことを話すことになるとは。
遥斗はただ純粋に彼に憧れていたのだ。それも中等部の頃から。
彼を最初に見たのは中学1年の梅雨。彼は雨の中たった1人で踊り続けていた。その姿はとても美しく、まるで鳥のようであった。彼がステップを踏めば雨水は軽やかに跳ね、手を差し伸べればまるで意思があるかのようにゆっくりとその腕を伝う。この天気すらも彼のためにあるもののような錯覚に陥った。見たこともないステップを次々に決めていく姿は当時の遥斗から見てもとてもかっこいいと思えるものだった。そして彼が最後のステップを終えると、先程の雨が嘘であったかのように止んだのだ。曇り空の隙間から差し込む日の光__確か『天使のカーテン』という名前があった気がする__がスポットライトで主演を讃えるように降り注いだ。ずぶ濡れの彼はその光を浴びて輝いていた。
ふとこちらに気づいた彼は多分微笑んで__雨で顔に張り付いた髪のせいでよく見えなかった__どこかへ行ってしまった。綾薙の制服を着ていたから、学校で探し回ったところ、普通科にいることがわかった。そして遥斗は直接会ってこう言ったのだ。
「高校で俺と一緒に舞台に立ってくれないか？」
流石に一瞬驚いているようだった。それもそのはず、ただの普通科の生徒に将来有望なミュージカル学科の奴が仲間になってくれと言ってきたのだから。でも彼はすぐに微笑んで、
「喜んで」
と言った。それ以来、遥斗と彼はよく行動を共にするようになっていった。その中で彼に嫉妬した(らしい)早乙女律や興味を持っていた双葉大我、魚住朝喜にも出会い、彼らは支え合いながら無事綾薙学園への入学が決まった。その時には名前で呼び合うほどの仲になっており、遥斗は彼を「みーちゃん」と呼んでいた。
例えどんな形であれ遥斗の願いはただ一つ。
「また5人でステージに立ちたい」
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作者名：水信 | 作成日時：2019年6月17日 23時
