氷上で煌めく太陽 (ページ39)

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３７話【結弦side】ページ39

今シーズンの前哨戦とも言えるフィンランディア杯。

エスポーの街はどんよりと曇っていて、冷たい風も相まって寒さが身にしみた。
トロントよりも寒いなー。風引かないように気をつけなくちゃ。

宿泊会場のホテルまでは、コーチのブライアンとともにタクシーで移動。

ブライアンはいつも陽気で、練習のときは厳しいことも多いけど、慣れない海外生活を始めた俺を気遣って楽しませてくれる。

ブライアン｢ユヅル！着いたよ、行こうか｣

結弦｢OK｣

荷物を下ろして、ホテルの玄関へ向かう。
自動ドアがサーッと開いて中に入ってみれば、ロビーを彷徨う不審な動きをした人。

キョロキョロとあたりを見回す横顔を見て、思わずフッと笑ってしまった。

結弦｢加賀美さん！｣

慣れない土地で知った顔に会えた安心感と、加賀美さんの動きが面白くて何してんのか知りたくて声を掛けた。

一瞬ビクッと肩を震わせた加賀美さんは、勢いよく僕の方を振り向いて。
すべてを理解した瞬間、パッと明るい表情に変わった。

そんなに疲れてないけど、｢疲れたー｣なんて言いながらキャリーに体を預けると、加賀美さんは俺に目線をあわせて近くのソファに座った。

久しぶりだね、なんて話してたら｢A〜｣と呼ぶ声がして、声の主はどうやら加賀美さんのコーチ。
ブライアンもほぼ同時にチェックインを済ませたみたいで、二人一緒に戻ってきた。

コーチ｢羽生くん、こんにちは｣

結弦｢こんにちは。日本語話せる仲間がいて嬉しいです｣

コーチ｢そっか。今はトロントにいるんだもんね。頑張ってよ？｣

結弦｢はい、ありがとうございます｣

そんな俺達のやり取りを見て、難しい顔をしてる人が一人。

｢ねえ、トロントにいるってどういうこと？｣

コーチ｢あれ？A知らないんだっけ？｣

｢全然話が見えないんだけど｣

結弦｢俺、今年の夏からカナダのトロントに拠点を移したんだ。今カナダに住んでるの｣

そう言うと、加賀美さんは驚いて目をまん丸くしている。
前に見た凛とした雰囲気はどこにも感じられなくて、中学生の女の子って感じ。
友達といるときは、こんな感じなのかなって思った。

また一つ、加賀美さんの新しい一面が見れてちょっと得した気分。