氷上で煌めく太陽 (ページ31)

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２９話【結弦side】ページ31

大輔｢怪我の程度は？大会を棄権するって、よっぽどなんだろ？｣

佳菜子｢大きなところだと足首の捻挫と、肩の脱臼。あとは全身の打撲と擦り傷だって｣

怪我の様子を聞いて、みんな｢うわ……｣と顔をしかめた。
それは俺も同じで。

当たり前だけど、加賀美さんは女の子だ。
擦り傷なんて痕が残ったら……。
そう考えただけで心が痛くなる。

佳菜子｢カナ、泣けてきちゃってさー！それなのにAちゃん笑ってるんだよ？おかしくない？｣

結弦｢カナが泣いたから、泣きたくても泣けなかったんじゃないの？｣

崇彦｢それはありえるな｣

佳菜子｢もうっ。そんなことないもん！｣

真央｢でもさあ、泣いてなかったとしても、Aちゃん……大会に出られなかったのはすごくショックだと思うよ｣

真央ちゃんの一言に、みんなシン……と黙り込んだ。

真央ちゃんの言うとおりだ。

俺たちスケーターにとって、大会は自分の実力を発揮する舞台。
それが世界選手権ともなれば、意気込みや覚悟は半端じゃない。

それは俺も経験してるからよく分かる。
ここにいるみんなも。

明子｢Aちゃん、絶対怖かったよね……。トラウマとかにならなきゃいいけど｣

真央｢後ろから抱きつかれるなんて怖すぎるよ。Aちゃんを襲った犯人、絶対許せない｣

結弦｢……そういや、その襲ったやつって捕まったの？｣

ここ大事。
犯人が捕まってなきゃ、また加賀美さんが怖い思いをするかもしれない。

佳菜子｢その場で捕まったってさ。人通りが多いところだったみたいで、すぐに騒ぎになって周りの人が助けてくれたって｣

結弦｢そっか。それならよかった……｣

安心してはあ〜、と息を吐いたら、なぜかカナのニヤニヤした顔。

結弦｢なに？｣

佳菜子｢Aちゃんのこと、心配？｣

結弦｢そりゃあ、そんな話聞いたら心配にもなるよ｣

佳菜子｢ゆづって、Aちゃんとそんなに仲良かったっけ？｣

結弦｢仲いいってほど親しいわけじゃないけど。……何が言いたいの？｣

佳菜子｢いーや？なにも？｣

結弦｢カナ、ニヤついてて気持ち悪い｣

佳菜子｢はー？！気持ち悪いってなに？！ゆづのキノコ頭のほうがよっぽど気持ち悪いし！｣

結弦｢いつの話してんだよ｣

加賀美さんの話をしていたはずなのに、気づいたら俺とカナの言い合いになっていて。
明子さんから｢ハイ、そこまで！｣と止められてハッと我に返った。

加賀美さんも心配だけど、まず今は自分の試合のことを考えなきゃ。