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言われるがままに、彼の後を着いて奥へと進む。
手狭な店内に陳列されている人形達がお行儀良く座っているショーウィンドウを横目に歩き、着いたのは、どうやらダイニングキッチンのようだった。
キッチンに置かれたまだ湯気の出ているケトル、真っ白なクロスが掛けられた4人掛けのダイニングテーブルにある飲みかけの紅茶、角砂糖が入った開けっぱなしのガラスのポット等が私が来訪するまで寛いでいたことを示している。
居住スペースと思しき場所になぜ私が。
そう思いながら先を歩いていた彼が立ち止まったキッチンから少し離れた場所に、如何にもアンティーク家具といった繊細で優美な装飾の施された1人掛けのソファがあり、小学校低学年から中学年くらいに見える男の子が座っていた。
痛むことを知らないであろう艶のある黒髪、透き通るような白い肌、子供らしく丸い輪郭、横に広い縁におさまったつぶらな瞳、広く柔らかな線を描いて閉じた唇。
簡潔に言えば、美しいの一言に尽きる容貌である。
身に纏っている、立ち襟がフリルのクラシカルなシャツ、丁寧に結ばれたリボンタイ、高級感溢れるツイード生地のジャケット、サスペンダーで繋がれたシックなパンツだって1つ1つが彼に完璧に見合うよう仕立てられたであろうもので、彼の美しさや少年特有のあどけなさを引き立たせていた。
「この子が君を選んだんだ。」
作り物めいてるものの店主同様不思議な温かさを感じる彼は人形なのか。
どこかで会った訳でもないのに選ぶとはなんなのか。
そもそもこんなプライベート空間に足を踏み入れて良かったのか。
問い糺したい点はいくらでもあったが、最初に浮かんだ質問から順に聞いてみようと口を開こうとした時___
彼のひどく澄んだ瞳と確実に目が合った。
先程まで人形らしい焦点の合わないどこか空虚だった瞳が明らかに私を映している。
そして私の目にはっきり見て取れるよう_見て、と言わんばかりに_ゆっくりと瞬きした。
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作者名:not found | 作成日時:2024年3月15日 2時