吸血鬼に捧げる歌なんかない (ページ6)

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『ひ、日々樹さん…？』

紛れもない、夢ノ咲学院三奇人が一人日々樹渉であった。

「ええ！…何やら困惑している様子ですねぇ、そんなに驚いてくれるとは。貴女にはサプライズのしがいがあるというものです。」

はきはきとした波のような抑揚のある話し方は、舞台役者に等しく

長く美しい髪と人を惹き込む笑顔は、零とはまた違った異様さを物語っていた。

『サ、サプライズ…』

少女が苦笑しつつ、答える。

渉は困惑する少女を他所に、話を進めていく。

「その様子、さては曲を作っているようですね？」

渉は少女が敢えて見せぬようにして胸に抱き抱えた楽譜を、何時の間にか少女の背後に立ちまじまじと見つめていた。

渉は今の様に、時折人間離れした芸を軽々と披露する。

人に楽しむ暇も、仕掛けを考える時間も与えない。

気づいたら答えが出ているのだ。

『の、覗かないでください！まだ未完成で…人に書いている曲じゃないし…。』

少女は口篭り、渉から一歩距離を置いた。

「フフフ、それがまた良いんじゃないですか。」

渉は口元に手を当てて、上品そうに笑った。

日々樹渉。現生徒会長の所属するアイドルグループ［Fine］のメンバーの一人である。

『よ、よく分かりません…。』

少女は渉の言葉に流されっぱなしで、単なる普通の会話がこうもするすると通り抜けてしまうと、
会話というより、フローチャートとなっていて

不思議な感覚を覚えていた。

しかし何故こうも、三奇人含める五奇人と何かと"奇人"が着く人々と多く人間関係を持ってしまっているのかは謎である。

恐らく原因は零なのであろうが。

と心の内で零に責任転嫁をして、目の前でくるくると小躍りしながら楽しげに話す渉を遠い目で見つめた。

そんな少女の背後にまた一つの影が。

渉はその存在に既に気付いているようだったが、敢えて少女に伝えることは無かった。

『ここはもう少しゆったりめで、バラードを意識した方が─』

「『後は強弱記号の置く位置を…』」

少女と背後にいた存在の発言が見事に入混ざった。
渉は何時も以上ににこにこと笑顔を向けている。

笑いを堪えているようにも捉えようによっては見えるのかもしれない。

少女は恐る恐る振り返る。

その背後には

「気づかれてしまったようじゃな。」

こちらの零もにこにこしている。