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音楽室の少女霊─。少女の異名となってしまった。
正体を知っているのは零のみ、拡散力のある彼がその名で己を呼べば、校内に瞬く間に拡がるだろう。
自分の名も知らぬ、顔もそしらぬ人々がこぞって自分の事をそう呼べば、数少ない友人からどんな目で見られるか…。
益々音楽室に入れなくなってしまう。
少女は零の反発に思わず、うっとして動揺を顕にし、先程のように直ぐ様言い返そうとするも、自分のその情報に匹敵する位の彼の弱みは持ち合わせておらず押し黙った。
そこまで気にするものなのか、と
何もそこまで重要視せずとも死ぬわけではあるまいし変な異名が着く事ぐらいこの学園では良くあることで、大目に見てやればいい、と
そう思うかもしれないが
逆に変に目立つのは、この良くも悪くも嵐のような学園生活内において、平凡な女子生徒が穏やか且つ平穏な日々を送ることの妨げになりかねない。
いいや、なりかねないのではない。なるのだ。
「夜闇の魔王に好かれる音楽室の少女霊…。映画みたいでいいじゃねぇか。なぁ？優秀な俺様の恋人ちゃんよぉ。」
『そうやってすぐ立場を利用して…狡い人ですね本当に！』
「お前が早く下の名前で呼べば解決する話だろ。泣きべそも晒して、本音もぶちまけて、それ以上に嫌なのかよ。そん時普通に零って呼んでたしな。」
『そういうとこです！嫌い！！』
「ふーん、あっそ。」
零はにやついたまま、少女を見つめている。
その後何を言い出すのかを既知して、待っているように。
『…なんですか、待ってても言いませんから。』
「たった二文字も言えなくなっちまったか？」
『脅しても、煽っても私の口はその二文字を口にしませんから。』
「どうすれば言う気になる。」
『そんな重い話じゃ…。何かして欲しい訳ではなくて…。』
「じゃ、なに。」
零の短い言葉と見据える瞳が放つ圧は、押し勝てるものではない。
自分も早く自然に呼んでしまえばいいのだが、言う言わないの勝負に持ち込んだのは自分なのだ。
言ったらまた零には、簡単な奴、と子供扱いされる気もして尚更敗れられない。
けれど…このまま放置しておけば、今後の対応が─
『急に距離を詰めるのが怖いんです！…零と、近くなるのがまだ不安です。』
「！呼べんじゃねぇか。」
『自然だったでしょう？…はい、呼びましたこの話はこれで終わりです！』
「偉そうに。…ま、いい。不安とかそンなんが分かんなくなるくらい近づいてってやるから。逃げんなよ？」
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作者名：黒凛蝶 | 作成日時：2022年6月14日 16時
