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暫く泣いて、零の胸を借りた後少女は安堵と疲れからかそのまま眠りについてしまった。
──翌朝、少女が起きると長い足を組みながら零が本を読んでいるのが見えた。
寝惚けた頭とぼやけた視界、やけに重たい目元、そして記憶に新しい室内、絶対的に自分の部屋でないことは確かだった。
脳が昨日の自分の言葉やら醜態やらを思い出していくにつれ、起き上がろうとする身体を再びベッドの枕に戻した。
「おはよう、嬢ちゃん。よく眠れたかや?」
我輩口調に戻った零が何事も無かったかのように、そう投げかけた。
此方は恥ずかしさでそれどころではないというのに、何時も通り淡々としている。
『…お陰様で快眠でした…。』
「それは何より。ほれ、ちゃっちゃと身体を起こせ。」
『い、いやです。今の顔じゃ物理的に合わせる顔がないってもんですよ。』
「何を今更言っておるのじゃ。」
呆れながら枕に顔を埋める少女の横へと移動し、起きるよう促す。
「泣き跡が残っていようが目元が赤く腫れていようが、我輩は何も言わぬて。…じゃが、昨日は何時もよりも大分、否かなり昔ぐらいには素直で、懐かしさと愛らしさを感じたのう。」
『一番嫌なとこついてくるのはわざとですよね、遊んでますよね…。』
「くっくっくっ…そう思うかえ?」
零はくつくつと悪戯に笑って、少女を見つめる。
この一日中続きそうなやり取りも何時ぶりだろうか、と懐かしさを感じた零の言葉に乗せられて考え始める。
しかし、昔の思い出を懐かしんでいる場合でないことを理解するのには時間はかからなかった。
今や自分がいるのは零の寮部屋で、つまるところ此処は男子生徒のみのアイドル科なのだ。
しかも人気グループのUNDEADときた。
事情を知らない他生徒から、また変な噂を流されては溜まったものでは無い。
それこそ何かよからぬ話の裏付けにまでされてしまう可能性だって出てくる。
自分が置かれている状況がどれ程危険なものなのか、漸く頭で理解した少女は先程の頑固さもプライドもかなぐり捨てて、ベッドから飛び起きた。
「っお、おう…。」
唐突に動き出した少女に驚きを隠せずにいる零を他所に、時間を確認すると朝の八時半を回っていた。
授業が、と慌てて壁にかけられてあったカレンダーを見ると日付が赤くなっている。
『しゅ、祝日…?』
「我輩も今朝それに気付いたんじゃよ。いやあ、偶然とはいえ良かったのう。」
『は、はい…?』
「じゃ、我輩は床につくとするかの。」
『え』
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作者名:黒凛蝶 | 作成日時:2022年6月14日 16時