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拍子抜けて、瞳を大きく見開いたまま純粋に驚いた声が口からもれ出す。
確かに零は少女の書いた曲を昔も含めれば腐るほど見てきている。
納得のいくまで、時には朝になるまで考え込んでいた少女の隣で途中で帰ることも無く付き添ってくれていた。
結局それが没になったとしても、「そんな事もある」と受け流し落ち込む少女を遠回しながら不器用にも励ましの言葉をかけてくれたりもした。
一発で少女の曲だと分かっていたのなら、何故その時受け取らなかったのか。
確かに普通に受け取ってしまえば佐伯の娘の思う壷だろうから、断るのは当たり前かもしれないが。
「あんな酷ェ有り様になるなんて予想もしてなかったけどよ…。」
「分かってても受け取らなかったのはお前からじゃなかったから。知らねぇヤツからお前の曲を渡された所で受け取る気なんざ、さらさらねぇよ。」
「あン時、ちゃんと言及しておけばとか思う所はあるがな…。」
零の言い分は、どこまでも零らしかった。
自分が渡しても同じ結果になるのではないかと、心の中で不安を感じて燃やされても、結果的には拒まれるのだとしたら、無かったことにされた方が、と。
削った時間や労力、人から見ればそこまででも無いかもしれないけれど、そんな自分なりの小さな努力が踏み躙られて、大声で悔しさを叫んでやりたい位だった思いを必死に押し殺していたが─
そんな風に思うのは、零に対して失礼だったのかもしれない。
「…お前の曲も、守れなくて悪かったと思ってる。」
謝る零に再び驚いて、罪悪感を感じ首を振る。
零の顔は未だ少し後悔の様な悲しさの様なものが感じられた。
あまり見た事のない表情だった。
それから零は少女の心を見透かしたように
「お前が聞きたかったのは、俺がお前の曲だって分かってたのに断った理由だろ？そんな顔だった。」
と言った。
『そんな顔…って何ですか。』
自分の顔を指摘され、そんなに表に出ていただろうかとやや不満を抱いて問う。
「俺様にしか分かんねぇよ。」
そう切り返され、少女は具体的な答えになっていないことに、尚更不満を募らせるが零が今度は質問を投げかけてきた。
「あとその痣。ずぶ濡れだったのもそうだけど何だ。」
顔だけに留まらず怪我まで指摘され、もう隠しようもなく少女は小さな声で答える。
『…いじ、め、』
「俺に渡してきた女か。」
『…うん。』
「そうか。」
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作者名：黒凛蝶 | 作成日時：2022年6月14日 16時
