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視線を泳がせ、必死に零から逃れようとしている。
「お前の楽譜が入ったファイルだろ。」
『そ、うだけど…』
「自分の事故でなった、なんて嘘聞かねぇからな。」
『う、そじゃ…ない。』
「お前な…っ」
少女と零の押し問答が続く。
「音楽室にも来なくなって、連絡もつかなくなって。学校でただでさえ会わねぇのに、どんだけ心配したと思ってんだ。」
『それは、ごめんなさい、忙しかった、から。』
零は溜息を一つ吐く。
少女が嘘をついていることなど、本人の口から聞くまでもなく理解はしていて、加害者側の方に乗り込む事は何時でも出来るのだが
それよりも自分に真実を頑なに話そうとしない少女に対して、悶々としていた。
信用されていないせいか、変な気を遣われているのか、何方にしても零の中では納得のいくことではなかった。
「…俺に話すのがそんな嫌か。下手くそな嘘まで吐いて。」
何よりも、悔しい気持ちの方が勝っている。
しかしそれ程までに隠し通そうとするのには必ず理由がある筈で、少女と長い時を過ごしている零は声を荒らげる事無く平静を保ち問うた。
零の問い掛けを聞いた少女がはっと顔を上げ、「違う」と強く否定した。
『違うの、』
「じゃあ─」
少女は口ごもって、言い出すのを悩んでいたようだったが暫く待つとぽつりぽつりと本音を洩らし始めた。
『…本当はれ、いを巻き込むのが、いや。』
「巻き込む…？」
『……曲作りも、ピアノ弾きに行くのも、全部私の自己満足で昔より良いのも出来ない、だけど、でも零はそれを好きって言ってくれる、のに─…っ』
『私が、こんなのだから、零も悪く言われて、悔しい、』
唇をかみ締めながら、涙を目に浮かべてそう話す少女を見た零は少し面食らって黙ってしまったのだが、本音を聞けた事に安堵して、少女の頭を撫でた。
「それが本音か？」
少女が頷く。
「…ん。分かった。取り敢えずこれ着とけ。」
雨に降られた様にずぶ濡れの少女に自分の制服の上着を掛けると、彼女はそれを一瞬拒んで返そうとしたが体調を案じている旨を伝えると、大人しく羽織った。
陽が落ちてきて、時間帯的に生徒も寮に戻る頃合だった。
気温も下がる夜、寮に送るとしても加害者連中に見つかる事は零自身、というよりも少女自身が一番気にしているだろう。
アイドル科はこの時間帯はまだレッスン場にいるだろうと見解を立てた零は
「取り敢えず、寮行くぞ。」
と少女の手を引いた。
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作者名：黒凛蝶 | 作成日時：2022年6月14日 16時
