吸血鬼に捧げる歌なんかない (ページ4)

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『週二…？』

自分が先程遠回しにでも伝えた、「もう弾かない」という意思が零の提案に反映されていないことにも若干の不満は覚えたものの

音楽関係に携わる学院というだけあって、これ程美しい音の出るピアノが弾ける場所は貴重な為、どうするべきか思い倦ねていた。

「そうじゃよ。週に数回程度ならば、噂も噂で留まるじゃろ？確かめに行くにしても、曜日も不確定にすればある意味運ゲー、じゃからな。」

『運ゲーって言葉が貴方の口から出るとは…。』

「我輩も可愛い後輩達に教えられる事が増えたということじゃ。」

「悪い話じゃないと思うのじゃが。」

零の提案は、確かに少女にとって悪い話ではなかった。趣味となってでも弾きたいピアノは弾ける、本当に辞めてしまうことは不本意だったのだから。

音楽室の扉の取っ手を掴んだまま、暫く少女は考えた。

零は少女が、次に何を言い出すか、もう分かっているように、黙ってその背中を見つめている。

少女は零に向き直り、小さな声で

『…週二…だけですから。』

と答えた。

予想通り且つ期待通りな答えを貰えた事に、零はそれこそ獲物を見つけた吸血鬼の如くにんまりと笑った。その口元から、特有の八重歯が覗いている。

「うむ。交渉成立じゃな。」

『ぁ、でも貴方は来ちゃダメです。私は、弾くだけ貴方は聞きたい。入ってお話する必要はありませんし…。』

「何を言っておるのじゃ？入ってお喋りするのもセットじゃよ。」

当然の様に後から概要を付け足す零に、先に条件を付けておくべきだったと後から後悔した少女なのであった。

─［翌週］─

『…ひ、弾きづらい…。』

猫脚のピアノ椅子、チッペンデールに座り、いざ曲を弾こうと鍵盤に手を添えペダルに足を置くも、零がその一連の仕草をじっと見つめてくるのだ。

『弾きづらいです！』

少女が二度、声を上げると零はくつくつと笑って
ピアノを背もたれに寄りかかった。

「緊張しておるのか？」

『いえ、緊張でなく気が散るんです！』

少女は零に注意する。

零は気にもとめず、うきうきと少女が弾き出すのを待っている。

もっと言いたいことが、主に指摘したい事があるけれど、それを気にしていたら一向にピアノも弾けず、日が暮れそうで

呆れ混じりな溜息を一つ零してから、すっと息を吸った。

それから流れ出した曲はシューベルトの即興曲、op142-2。

静かな音色が音楽室を満たしていく。

零は心地良さそうにその音に耳を傾けていた。