ＪＥＷＥＬ

3.売れない物書き ページ3

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今、目の前でビールを片手に肉を焼いている男『藤ヶ谷太輔』は私の元同僚の編集者だ。



少しはねた柔らかそうな茶髪に鼻筋の通ったクールなルックス。間違いなくモテるだろう、いやモテないはずがない。



私の今の生業はフリーライターなるもの。
いわゆる物書きだ。
私はフリーライターになる前、編集者として太輔と同じ職場で５年働いた。どうしてもライターになりたくてその後転職。



転職したのはいいけれど、正直仕事が上手くいっているとは言い難い私は、目の前のＳ気質のこの人に、同情されてか単発の仕事をもらうことも度々あった。
悲しいかな、売れっ子のライターなどではなく細々と仕事をもらい、細々と生計を立てている売れない物書きの一人だった。



稼げていない私が言っても説得力は皆無かもしれないが、稼げるライターとはどういうライターか？
もちろん感性が面白いライターは売れっ子になれる。
これは才能の問題。
その他は、単刀直入に言うと稼げるライターは文章が下手で、稼げないライターは文章が”やたら”上手いということ。



え？なんで？逆じゃない？と思うかもしれないが、私だって編集者として仕事をしてきたつもりだ。
この辺はよくわかっている。



私も編集者時代、いろんなライターさんの原稿を見てきた。文書が下手ということはつまり文章が適当ともいえる。
文章が適当であっても、きちんと取材された原稿であれば多くの編集者の場合「仕方ねぇなぁ、ちょいと直すか」となる。



ほとんどの編集者は自分の世界を持っていて、そしてその世界を自分で作りあげたいとも思っている。
だから、この下手な原稿を直す作業についてそこまで苦を感じない。
むしろ快感さえ覚える人もいるし、そもそもライターからあがってきた原稿を直すのも編集者の仕事だった。



文章が“やたら”上手いライターに共通するのは、とにかく原稿が遅いということ。
編集者にとって一番困るのは締め切りを守れないことで、これでは使いたくなくなってしまう。
とにかくこちらに原稿を送るまでに文章を何度も練り直し締め切りギリギリまで送ってこない。
それに加え拘りが強く、ダメだしをされれば直さないといけないのに露骨に拒否るライターもいる。彼らは作家ではないが、自分の原稿を作品と勘違いしている人間も多かった。







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