46.親子と師弟 ページ46
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「はい」
「俺……さ、親父が死んでからしばらく筆を持てなかったんだ」
北山さんは残っていた缶ビールを飲み干すと、私を見つめて静かに話し出した。
「親父は野心がある人間で、親父からはとにかく有名な書家になれって言われ続けてきた。五歳の時に筆を持たされて、幼い時から親父の厳しい習字の指導を受けて古典からみっちり学んでさ、臨書も死ぬほどやってきた」
五歳……
「そんなに小さい時からですか……」
「小学校に入ると、友達が遊んでいても俺は単純に書が好きだったから、練習ばかりの毎日でも特に苦にも思わなかったよ」
北山さんの書道への気持ちは、よく分かってるつもりだった。
「俺が大学を卒業する頃になると既に親父は有名な書家だったから、親父の関係で俺もテレビや個展や雑誌の仕事がどんどん入るようになってきたんだ。特に望んだわけじゃない。人前に出るのは正直すげえ嫌だった」
「拒めなかったんですか?」
「何て言うのかな……俺たちは親子の前に師弟関係だったから、まだその時は拒むなんて考えたこともなかったよ。有名な書家である自分の息子にも自分のような人生歩ませたかったんだろ」
北山さんは当時を思い出したのか、指を絡ませ擦り合わせるような仕草をしながらテーブルの上に視線を落とし眉根を寄せた。
「だけど段々大人になるにつれて、親父との書に対する考え方の違いがはっきり出るようになってきた。その事ではいつも言い合いをするようになって……。
親父が死んだ日、親父と喧嘩して俺、すげえ酷い事を言った……パフォーマンスとしての書道に幻滅したと。今の親父の書は、無理に味があるように形作っているって親父にたてついた。親父の書には心がないとまで言った。自分の師匠をめちゃくちゃに酷評したんだ」
「お父さんはなんて?」
「言い返してくるかと思ったら……お前の言う通りかもしれないって、少し笑ったんだ。その時の哀し気な顔が……今も脳裏に焼き付いてるよ」
「……」
「その日の夜、ちょっと出かけてくるっていつもの感じで外出して……でも、二度と帰ってくることはなかった。車の事故で死んだんだよ……女を乗っけて、その人と一緒に」
北山さんはそこまで話すと、一度私に視線を移した後、頭を抱えて下を向いた。
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siori(プロフ) - にかみつばさん» にかみつばさん、お返事遅れてごめんなさーい!また来てくださったなんて感激です!星も嬉しいです。また書道やってほしいですね! (2021年3月3日 19時) (レス) id: ad892650f9 (このIDを非表示/違反報告)
にかみつば(プロフ) - 久しぶりに書道家の北山さんに会いたくなって来ました。いいね☆していなかったみたいでごめんなさい!右☆をポチッとさせて頂きました! (2021年3月1日 0時) (レス) id: a0721de2a5 (このIDを非表示/違反報告)
siori(プロフ) - にかみつばさん» にかみつばさーん!お待たせしました!パス付きの方は夜には外せると思います!遅くなってごめんなさい! (2020年7月5日 16時) (レス) id: 05c0397959 (このIDを非表示/違反報告)
にかみつば(プロフ) - ありがとうございます。明日明後日にはと仰っていたのでずっっと楽しみにしていました!これから読めるのが楽しみです。 (2020年6月5日 1時) (レス) id: 74d56dba5b (このIDを非表示/違反報告)
siori(プロフ) - にかみつばさん» にかみつばさん、お待たせしましたー!2のパスワードを外しましたのでお知らせします。大好きと言って下さり感無量です!涙 (2020年6月5日 1時) (レス) id: f587e16f89 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:siori | 作成日時:2016年6月4日 13時