夜を攫う者 gr ページ34
「…あなた誰なの?」
使用人たちにバレないように小声で尋ねれば、ベランダに立つ人影がゆっくりと動いた。
黒いマントに覆われた、仮面を付けた男。その男はベランダで律儀に礼をして、窓を開けるように急かした。
__普通の人間だったら開けないのだろうが、私はそこら辺にいる者ではない。
物音を立てないようにベッドから起き上がり窓の施錠を解除する。
立て付けが悪くなってきた窓を音を立てずに開けると、男は静かに部屋に入った。
「こんばんは、A姫」
「こんばんは…。それで、あなたは一体誰なの?」
その仮面の下の顔が見たい。
そんな好奇心に襲われながらも平常心を保ちながら私は男に聞いた。
「そうですね…。A姫を攫いに来た、とでもいいましょうか?」
敬語が似合わない男は怪しげにそう言って手を伸ばす。私はその手を振り払って逆に仮面に手を伸ばした。
「おっと」
仮面を剥ぐ前に男に手を掴まれる。意外と逞しくて、驚いてしまった。
「せっかちな姫だ。そんなに顔が気になるのか?」
「そっちの方が似合うわよ、あなた。堅苦しい敬語なんかよりも」
「それはどうも」
仮面の下で笑っているのであろう男は、私を引き寄せ抱き上げた。開きっぱなしの窓から風が入る。
「…もしかしてあなた、巷で噂のファントムさん?」
「……そう噂になってるのならそれで良い。俺はファントムでもあり、ファントムでも無い」
「どういう事?」
「A姫から見たら俺はファントムだ。だが別の奴から見たらファントムでもなく…そうだな、怪盗と思われている」
「そうなのね」
適当に返事をすれば男は苦笑した。あまりにも私が興味がなさ過ぎて呆れてしまったのだろう。
「ところで俺は先程も述べた通りA姫を攫いに来た。抵抗はしないのか?」
「抵抗しても意味がないもの。そんなに堂々と来るくらいなのだから、相当腕も良いのでしょう?」
「…ただの阿保ではないのだな」
「失礼ね。私を誰だと思ってるの」
「これはこれは…。大変失礼しました」
わざとらしく謝る男は私を抱き上げたままベランダに出る。真っ黒な空に浮かぶ月が歪んでいた。
「…ねぇ、別に私、貴方に拐われても良いわ。だからその顔を見せてちょうだい」
「__我儘な姫だ」
呆れたように言った男は、空いてる手で仮面に手を伸ばす。
仮面の下の顔は、朱色の瞳でジッと私を見つめていた。
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できるニート(プロフ) - 真由さん» ホントですか!そのコメントだけでも励みになります!更新頑張ります (2020年12月25日 12時) (レス) id: ffbcb8a332 (このIDを非表示/違反報告)
真由(プロフ) - 初コメ失礼します...!最新話が鬼っほど大好きです...解釈一致が凄いです...ありがとうございます...!!! (2020年12月25日 11時) (レス) id: 045f50c8f8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:できるニート | 作成日時:2019年9月1日 14時