ONLY LOVE ５【ARS】 (ページ26)

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side.Kiuchi

『この子は櫻井翔くんっていうの。年は5歳だから俊くんよりは1つお兄ちゃんね。皆んな仲良くしてあげてね』

私が紹介している間、翔くんは心ここに在らずという感じで遠い先を見ていた。

当時まだ四歳だった俊くんはそんな翔くんに一度は驚いた顔をしたが他のどの子よりも先に声を掛けた。

『よろしくね、翔くん』

翔くんからの返事はなかったが、ギュッと俊くんの服の袖を掴んでいるのが見えて少しホッとした。

『……大丈夫だよ』

翔くんは俊くんにとっては一つ上のお兄ちゃん。小学生のお姉ちゃんや高校生のお兄ちゃんよりずっと近い存在だから通じるものがあるのだろう。

そんな二人の様子にきっと上手くやっていけると確信していた。

しかし、予想通りというか翔くんは殆ど心の中を見せなかった。他のどの子よりも時間が掛かると分かっていても新米だった私は何度も枕を濡らした。

ご飯を食べる時も一口入れるのが精一杯で中々食が進まないから体重もあまり変わっていない。

加藤先生からもバランスの良い食事を心掛けるよう言われているから必死に食べさせようとしているのだが全く食べてくれないのだ。

『翔くん、美味しいよ。ちょっとだけ食べてみようよ、ね？』

『…ぅん…』

ゆっくりスプーンを口元に持っていくと一度は口に入れるものの、その日の体調によっては飲み込むことも出来ず吐き出してしまう。

『ん、あっ…』

『大丈夫だよ。頑張った、頑張った。今日はこれぐらいにしようか』

無理して食べさして食事に対して恐怖を持ってしまっては困る。口に入れられた事が凄いと褒めるのが成長の証だった。

そんな翔くんの事情を他の子供達が気付いていない訳はなくて。それでも誰もそれを口に出したりする様な事はしない。ただ優しく笑って翔くんに声を掛けてくれるのだ。

『翔くん一緒にお外であそぼーよ』
『えー私とお絵かきしようよ？』

そんな暖かい声にだんだんと翔くんも笑顔を見せるようになった。

そして、その笑顔を引き出すのが一番得意なのは俊くんだった。

『翔くん、いこ』

お昼ご飯を終えた翔くんの手を取って外に連れ出す。翔くんは言葉さえ話さないものの嬉しそうに笑って頷いて俊くんに着いていく。

そして大きなきっかけは二人を同室にした事だろう。ひまわり園では年齢に関わらず子供達が二人同室で過ごすようになっていた。俊くんにとって初めての同室相手は翔くんだった。