131 辛くて悲しい。 ページ16
side.A
どこか様子のおかしい大ちゃんがそそくさと自室に入っていて、それに続くようにニノが翔ちゃんを連れて二階に上がる。
そして、リビングに残されたのは俺と松潤。
感じる視線を辿れば、いかにも困惑というか少しばかり怒りの念が籠った松潤の目。
こうなった理由も時間も俺達にはさっぱり分からなくて、大ちゃんの部屋に行こうか、ここで待っていようかと考えを巡らせる。
「翔さんのあの様子じゃ完全に大野さんだろ？あの人、何やってんだよ…」
ばん、とテーブルを叩く松潤に驚きつつもその背中を摩る。
分かるよ、俺にも。松潤は翔ちゃんの事が心配で堪んないんだよね。でも、俺は翔ちゃんの事もだけど大ちゃんも心配で堪らないんだ。
「翔ちゃんにはニノが付いてくれてる。それに理由もなしに大ちゃんが翔ちゃんを放ってあんな態度とるわけない。でしょ？」
「そんなの、そんなの俺だって分かってるよ！」
大きな声を上げた事を気にして俯き、俺と目線を合わそうとしない。それでも分かる。
俯きながらも震えるその肩は涙を堪えてる証拠だ。
松潤は強いんだよ。俺は知ってる、これでもずっと見てきたんだよ？
「だいじょーぶ、ね？」
「あぁ」
それから二人で話し合った結果、大ちゃんが自ら部屋から出て来るのを待つ事に決めた。
そして、大ちゃんがリビングに降りてきたのはそれからすぐだった。
「あ、大ちゃん！」
話す事も質問する事も事前に考えていた筈なのに、いつもと違う怖い目をしている大ちゃんをいざ目の前にしたら名前を呼ぶ事しか出来ない。
そんな俺の呼び掛けに振り返ることもなく、何か反応することもなく。
大ちゃんは何も言わずに冷蔵庫の前までゆっくりとしたスピードで歩いて行く。
俺と松潤は何を言うわけでもなく、ただ大ちゃんの行動をじっと見つめていた。
「お、大ちゃん！」
「…っん……」
そしたら冷蔵庫を開けようと伸ばした大ちゃんの手が震えているのが見えて、思わず叫んでしまった。
そして、大ちゃんはそのまま支えを失ったかのように床に座り込んだ。
「大野さん！」
「大ちゃ…」
俺ら二人ががりで大ちゃんを立ち上がらせて、そのままソファーに寝かせる。
その間も意識はあるのに、目はぱっちりと開いているのに、俺らとは一切視線は交わらない。
それが辛くて悲しくて。でも、俺なんかより大ちゃんの方がずっと辛くて悲しいんだよなって。
そう思ったら、大ちゃんの手を自然と握っていた。
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作者名：未翔
| 作成日時：2020年3月8日 20時
