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37 優しく温かい。 ページ40

side.S


潤のあの言葉は、多分嘘だと思う。
いや、絶対に。


そりゃ何年も一緒に居るし嘘をつくのがどういう時かも分かってる。


「智くんだって気付いてないわけないでしょ?」


自分の部屋に俺を引っ張って連れてきたものの今は放心状態というか…


これじゃ智くんが一番、重症じゃないか。


「翔くんは、何も気にしなくていいから。俺が、おいらがずっと傍に居るから」


口を開いたと思えば、この言葉を繰り返す。


分かっている。これは俺が招いた事態だと。


でも情けない事に俺にはどうしていいのか分からなくて、智くんにどう償うべきなのかな…


「翔くん、」


「ねぇ、智くん。こっち見て」


下を向いたまま俺を見ようとしない智くんが俺の声でようやく目線が通う。


その目はいつもの穏やかな優しい瞳ではなかった。


あの時の不安そうな目だ。



『俺のせいなんだ。だからもう、悲しい思いはさせたくないんだ』



「潤の言葉、俺は嘘だって思ってる。でもさぁ、あの約束はもういいんじゃないかな?」


途端に目を見開いて首を振る智くん。


そんなのダメだって、譲らない。


「だってニノも潤も充分してくれたよ。俺、本当に嬉しかったって思ってるよ」


仕方ないこと。ずっと前から分かっていたことだ。


この世に永遠何てものは存在しない。


それでも俺はニノから、潤から、雅紀から、そして何より智くんから幸せを沢山もらった。


「もう、自由にしてあげようよ」



「なに、なに言ってんだよ……翔くん」


さっきまで俺のことを抱きしめていた智くんがサッと体を離し、俺の肩を掴む。


その目はさっきの不安そうな色なんて微塵もなくて、怒ってんなぁって。


「翔くんは、全然分かってないよ」


俺には、何も返す言葉がなかった。


智くんは俺が黙りこんだのを見て、静かに部屋を出て行った。





「翔ちゃん」


どれくらい智くんの部屋で動けずに居たのだろう。


ノックの音と雅紀の声が聞こえて顔を上げれば雅紀が部屋に入って来て俺の目の前まで来てしゃがみこんだ。


「どうかした?」


雅紀はんふふ、と笑ってそれはこっちのセリフと言った。


「翔ちゃん、俺にぜーんぶ話してよ。翔ちゃんの心の中にある物ぜーんぶ俺に教えて」


ふわっと頭を撫でられ、抱き締められる。


俺は年下のコイツにいつも助けられてる。


それでも俺が罪悪感を感じないように、笑顔で、俺の手を握る雅紀は優しくて温かい。

38 自由ってなに。→←36 嘘をついた訳。



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未翔(プロフ) - 蒼星さん» 読んで頂きありがとうございます。そう言って頂けると有難いです。出来るだけ更新したいと思いますので、これからもよろしくお願いします。 (2019年5月26日 12時) (レス) id: b3cb87418b (このIDを非表示/違反報告)
蒼星(プロフ) - 初めまして。毎回更新を楽しみに拝読しております。わざわざ更新出来ない旨のご連絡ありがとうございます。読者は作者様から与えて頂くもので楽しませてもらっていますので多少の待ち時間は気にならないです。お気になさらずこれからも楽しみに待っています。 (2019年5月26日 11時) (レス) id: c0123debb3 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:未翔 | 作成日時:2019年5月19日 21時

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