第2章−2− ページ47
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「それは大変だったねぇ」
同情がこもった雅紀の声を、
櫻井はテーブルに突っ伏しながら聞く。
テーブルに上がってきた嵐丸が、頭部に猫パンチを浴びせかけてくるが、いまは動く気になれなかった。
反応がなくてつらまらなかったのか、
嵐丸はテーブルから下りる。
カーチェイスの約1時間後、櫻井たちは喫茶 梓で、首尾を大野と雅紀に報告していた。
松本と二宮も、櫻井と同じようにテーブルに突っ伏している。
ミニは一瞬で追跡を振り切ったが、奈美は「ほかにも尾行している車があるかもしれません」と、30分近くレースさながらの運転を続けた。
30分間もシェイクされ続けた三半規管は完全にグロッキーとなり、車を降りてからかなり経っているにもかかわらず、未だに世界が揺れているような気がする。
「じゃあ、赤羽さんが調子悪そうだったのって、奈美ちゃんの運転のせいなわけ?」
カウンターに上がってきた嵐丸の頭を撫でながら、雅紀が訊ねた。
梓ビルの地下駐車場に着いた際、赤羽は自分一人ではまともに歩けないほど消耗していた。
いまは奈美がついて、3階の病室で休んでいる。
「それもあるでしょうけど、精神的なショックの方が大きかったんだと思います。せっかく自宅が見つかったと思ったら、警察に家宅捜索されていたんですから」
ようやく平衡感覚が正常に戻ってきた櫻井は顔を上げる。
「まあ、それはショックだよね。ちなみに家宅捜索って、あの爆発事件について?」
「普通に考えたらそうじゃないですか?」
「ということは、あの爆発事件で自宅を家宅捜索されて、しかも刑事らしき男たちに尾行された。さすがにこれってやばくない?」
相葉は大野を横目で見る。
「まぁ、たしかにな……」
大野は歯切れ悪く答える。
「万が一、赤羽さんが爆破犯だった場合、俺たちまで共犯者になっちゃうよ。このまま、赤羽さんを匿ってていいの?」
大野は腕を組んで数十秒沈黙した後、
ゆっくりと口を開いた。
「彼女はうちのクリニックの患者だ。犯罪者であるという確実な証拠でない限り、俺たちは情報を絶対に外に洩らさない。それがうちのクリニックの方針だ。今回もそれに変更はない」
スタッフたちの顔を見回しながら、大野は宣言するように言う。
「そう言うと思った」
雅紀はいたずらっぽい笑みを浮かべる。
まだ机に突っ伏したままの二宮と松本の口元も、かすかに緩んだように見えた。
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作者名:未翔 | 作成日時:2021年11月9日 16時