大野クリニックで祝杯を－淡雪の記憶－ (ページ33)

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「そこから何が見える？」

「ビル……遠くに２棟のビルが見えます。並んだ大きなビルと小さなビル。そして、その前に川が……」

赤羽がつぶやくのを聞いて、二宮は振り返って松本に目配せする。

松本はかすかにあごを引いた。

おそらく、あとで赤羽の記憶を頼りに、その光景をスッケチさせようというのだろう。

似顔絵から風景まで、松本は画家顔負けの絵を描くことが出来る。

「それじゃあ、振り返ってまたリビングを見よう。ダイニングテーブルの上には何か載っているかな？」

二宮は再び赤羽に話しかけはじめる。

「テーブルの上……？いえ、なにも……」

赤羽は戸惑いの声を上げた。

「本当かな？よく見て。食事が載っているんじゃないかな。温かそうな食事が」

「食事……？ああ、載っています。シチューが湯気を立てています」

「そう、美味しそうなシチューが用意されているんだね。それで、誰が席についてる？」

「席に……？」

また赤羽の口調に戸惑いが混じる。

「そうだよ。そこには誰かいない？例えば君の家族とか、友人とか、親しい人がさ」

「家族……か、ぞく……」

呆然とつぶやいた赤羽は、唐突に目を大きく見開くと、「いやあ！」と悲鳴を上げて上半身を起こした。

「赤羽さん?!」

両手で頭を抱え、甲高い悲鳴をあげる赤羽を寝かそうと、二宮が慌てて手を伸ばす。

しかし、赤羽はその手を乱暴に振り払った。
勢いよく振られた手が二宮の顔をかすめる。

爪が当たったのか、二宮は顔をしかめて頬を押さえる。

赤羽は両手で抱えた頭を振り続ける。