大野クリニックで祝杯を－淡雪の記憶－ (ページ16)

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担架の上には救急セットが入った大きなボストンバッグが載っている。

担架を床に降ろすと、奈美が両手でバッグを持ってくる。

「救急セットです！」
「ありがとう、奈美さん」

救急バッグの中から点滴セットを取り出した櫻井は、駆血帯で女の腕を縛り、点滴ルートの確保をはじめた。

その隣ではポータブルエコーを取りだした雅紀が、女の腹にプローブを当て、内蔵の損傷を調べ始める。

奈美は簡易点滴棒を組み立てると、いつでも輸液が出来るように点滴バッグを吊るした。

「騒ぎを起こしたくなかったっていうのは、どういうことだ？」

大野の質問に、二宮は得意げに鼻を鳴らしてダイニングテーブルを指さす。

「そんなの簡単だよ。ほら、テーブルの上にワイングラスが2個置かれているでしょ。つまり、さっきまで誰かとワインを楽しんでいたんですよ」

「この人とワインを飲んでいたっていうこと？」

エコーのプローブを動かしつつ雅紀が訊ねると、二宮は首を左右に振った。

「違う違う、その女の人が庭に侵入してきたって言ったとき、社長は本当のことを言っていましたよ。つまりね、さっきまでこの家には、もう一人の人間がいたんですよ」

二宮はにやりと笑う。
梅沢ら顔がひきつった。

「もう一人？
その人はどこ行っちゃったわけ？」

エコーの画面から顔を上げることなく雅紀は言う。二宮はこれ見よがしに大きなため息をついた。

「相変わらず、相葉さんは勘が悪いなぁ。逃げたに決まっているじゃないですか。その人は、ここに居たことを知られるわけにはいかないからね」

「あぁ、まどろっこしいな！
さっさと何が起こったのか説明してよ！」

緊急事態にもかかわらず、もったいぶる二宮に苛ついたのか、雅紀の声が荒くなる。

「つまり、さっきまでこの家には女の人がいたんだよ。家族が居ない時を狙って家に上げ、2人でワイングラスを傾けるような女性が。そうですよね？」

梅沢は、「いや……、それは……」と、口の中でごにょごにょと言葉を転がした。

「そんな感じで愛人とイチャついている時、急にその女の人が庭に入って来たわけ。もし救急隊とか警察呼んだら、2人でいた事がバレるかもしれない。だから、代わりに僕たちわ呼んだってわけですね」

二宮は左手を顔の前に持ってくると、人差し指をぴょこんと上げた。