第１章−２− ページ13
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大野が連絡を受けてから約30分後、大野クリニックのスタッフ達は全員で、北区赤羽にある豪邸の前にやってきていた。
「なんで……俺たちまで来る必要があったわけ……？俺は精神科医なんだから、急患の対応なんかできないのに……」
真っ青な顔を晒した二宮が、力なく言う。
「どんなトラブルがあったか分からない以上、万全の体制を整えるのは当然だろ」
二宮に傘を差しだしながら、
大野は笑顔で答えた。
クリニックが所有するキャンピングカーでここまで来たのだが、ドライバーである奈美がとんでもない運転で飛ばし、車内は嵐に揺られる小舟の中にいるかのようだった。
そのため、二宮だけでなく、櫻井、相葉、松本も、車が邸宅の前に停車すると同時に、顔を真っ青にして車から転がり出たのだった。
「でもさ、いくら何でもあんなに急がなくても……」
そのまで言ったところで、二宮は慌てて口元を押さえてしゃがみ込んだ。
大野はその背中を撫でながら、櫻井達にも傘を渡していく。
「え、でも、急患だとしたら急がないといけないし」
運転席から奈美が顔を出す。
だとしても急すぎだ。
傘を差しながら、
櫻井は嘔気がわだかまる胸元を撫でる。
「あ、あの車いいなぁ……」
奈美が駐車場に停まっている二台の車を眺めながらつぶやいた。
一台はレクサスのセダンで、
もう一台がポルシェのカレラだった。
「カレラの新車買ったんだ。たしか、前はカイエンだったんですよね」
「カイエンって、ポルシェのSUVだっけ」
櫻井が何となく話を合わせると、奈美は目を輝かせる。
「そうなんです。しかも普通の型じゃなくて、カイエンターボだったんですよ！完全なスポーツタイプのカレラもいいですけど、パワーのあるSUVもいいんですよね。エンジンの振動とか力強くて……」
図抜けたドライビングテクニックを持つスピード狂である奈美は、車に目がない。
特にスポーツカーの話をしだすと
止まらなくなる。
「奈美、車の話はあとでな。俺たちは梅沢社長に会ってくる」
大野がやんわりと話を遮ると、奈美は頷いた。
「はい。じゃあ私は車で待っていますね。駐車違反の切符切られたら大変だから」
それより、スピード違反を心配するべきじゃ……。
笑顔で手を振る奈美に、
櫻井は胸の中で突っ込みを入れる。
正面玄関へと大野が向かう。櫻井たちはふらふらとした足取りで大野に続いた。
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作者名：未翔
| 作成日時：2021年11月9日 16時
