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「ここでいいです」
「はい、どうもありがとうございます。
二千八百円になります」
車を停めると、タクシーの運転手が
愛想良く言う。
櫻井は財布から千円札を３枚出すと、
「お釣りはとっておいてください」と言って
車外に出た。
運転手の「ありがとうございます」という声
を聞きながら、櫻井は周囲を見回す。
数十分前、ファストフード店をあとにした
櫻井は大通りでタクシーを拾い、クリニック
の梓ビルのすぐ傍までやって来ていた。
タクシーが走り去っていくのを確認すると、
櫻井はブロック塀の陰から喫茶梓の様子を
うかがう。
店内に客はいないようだが、カウンターの中
でマスターが新聞を読んでいるのが見えた。
櫻井は小走りでビルに近づくと、
喫茶梓に入る。
「あの……おはようございます。ちょっと
大野先生と話をしたいんですけど……」
目を大きくするマスターに
櫻井は話しかける。
カウンターの奥には、地下のバーや
上の階のクリニックに繋がる内線電話が
置かれている。
普段なら頼むと、マスターは無言のまま大野
がいる場所に内線電話を繋いで受話器を差し
出してきてくれる。
しかし今日に限って、マスターは櫻井の顔を
凝視して動かなくなった。
その態度を見て櫻井は確信する。
昨夜の件についてマスターが既になにか
知っていることを。
「あ、あの……、ちょっと出直します」
危険を感じ取った櫻井は身を翻す。
出口に向かって一歩足を踏み出した瞬間、
唐突に背後から羽交い絞めにされた。
驚いた櫻井が首に回すと、いつの間にか
カウンターから出ていたマスターが背中から
腕を回してきていた。
必死に「放してください」と身をよじる櫻井
の耳元に、マスターは口を近づけてくる。
「落ち着け。暴れるな」
ダンディな声が鼓膜を揺らす。
これまで一言も喋ることのなかった
マスターが声を出したことに虚を突かれ、
櫻井は抵抗をやめる。
その隙をはかったように櫻井はカウンター内
へと引っ張り込まれた。
「何をするんですか⁈」
櫻井が思わず声を荒げると、マスターは
厳しい表情で外を指さした。
反射的にそちらを向いた櫻井は目を剥く。
全面ガラス張りの窓の外に２人の男が
歩いていた。
一人は大野、そしてもう一人は
鳥の巣のような頭髪の猫背の男。
「隠れるんだ」
マスターは再び声を出すと、
櫻井の頭を押し下げた。
櫻井はカウンターの陰に身を潜める。
それとほぼ同時に風鈴の音が響いた。
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ここここ(プロフ) - はじめまして！！！最近この作品と出会いまして、面白すぎて一気読みしました！読みながら「この人が怪しい、いやあの人も怪しいな…」と推理しながら読みましたが、まだまだ私の推理は稚拙なものでした…笑 続編も楽しみです！ (2021年11月18日 19時) (
レス) @page44 id: 6c5860f770 (このIDを非表示/違反報告)
未翔(プロフ) - stormさん» 読んで頂きありがとうございます。続編の方も宜しくお願いします！ (2021年11月12日 12時) (レス) id: 53c29ae25f (このIDを非表示/違反報告)
storm - どうも！とうとう完結か…とfin.の文字に寂しさを感じていた私ですが、続編という文字を見て舞い上がりましたw本当に完成度が高くて、すごくハラハラドキドキさせられる、素晴らしい作品でした。完結までお疲れさまでした！そして続編でもお世話になります！ (2021年11月9日 22時) (レス) @page43 id: 5bdda0872c (このIDを非表示/違反報告)
未翔(プロフ) - 彌生さん» 初めまして。読んで頂きありがとうございました。是非、続編でもドキドキを味わって頂けたらと。 (2021年11月9日 16時) (レス) id: b3cb87418b (このIDを非表示/違反報告)
未翔(プロフ) - あきらさん» 初めまして。サスペンスが好きなんですね。楽しんで頂けたようで良かったです。 (2021年11月9日 16時) (レス) id: b3cb87418b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：未翔
| 作成日時：2021年9月24日 20時
