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深山部長が制作会社から戻って来たのは先生が帰って直ぐの事だった。
先生がつい先程まで営業部に居たことを伝えると「申し訳ない事をしたな。入れ違いになっちゃた」と頭を搔く。
どうやら急遽、制作会社から呼び出されたらしい。先生の担当をしている人には連絡を回したようだけど時間差だったようだ。
「で、映画の方はどうでした?」
「いやぁ。俺も今日初めて聞いたんだけどさ、結構豪華キャストだよ。ほら、知ってる?二宮和也…」
「…、え…」
ジャケットを脱いで「あちぃ」と手で風を送りながら、会話の間を不自然に感じた部長が俺を見る。
「ほら、若くてイケメンの」
「いや、知ってますよ。知ってます」
「さすが。まだ櫻井くんも若いからねぇ。確か年もそう変わらないんじゃない?」
年は俺より二つ下です。そして知ってるも何も二宮和也は俺の恋人です。
なんて言える訳もなく、「そうですね、近いと思いますよ」と返し部長の席を離れる。
まさか先生が書いた小説の映画にニノが出るとは。しかも話を聞けば主演で。
ニノはまだ若いけど実力も実績も充分あると太鼓判を押されているから全く心配は無いし、寧ろ嬉しいんだけど、
「…映画撮るとか聞いてないって」
ここ最近、ようやく主演映画の撮影が終わったばかりだというのに。さすがは売れっ子だ、すぐ次の仕事が舞い込んできたんだ。
恋人としては嬉しい反面、少しだけ寂しくもある。
主演となれば不規則な生活も更に度を超えてくる。撮影状況によってはオフが急遽無くなることも日常茶飯事だし。
以前、ニノがオフの日に二人で映画を観ようと約束していた。けれど、突然の呼び出しに彼は申し訳なさそうに何度も頭を下げて謝った。
仕事だし仕方のない事だから俺も笑って「また今度にしよう」と言ったものの、心のどこかでは寂しく感じていた。
でも、この映画でニノが主演をするのも何かの縁だ。
俺も内容は熟知しているし、部長の話によれば映画オリジナルではなく先生の著書のみで脚本も依頼したと聞いている。
きっと微力ながらも力になれる事もあるだろう。
そう考え出すと止まらないもので、職場だという事を思い出し慌てて綻ぶ顔を引き締めた。
俺のデスクの上に並べられた先生のこれまでの全ての小説。
入社して最初に担当した事もあってか先生の一ファンでもある俺は直ぐに彼の優れた才能に魅了された。
しかし今の俺が、そんな先生の作品を眺めながら考えるのは恋人の事だった。
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未翔(プロフ) - 夜月さん» ありがとうございます!待って頂けていたというだけで嬉しいです。 (2021年4月17日 9時) (レス) id: b3cb87418b (このIDを非表示/違反報告)
夜月(プロフ) - 更新ありがとうございます。 待ってました! これからも頑張ってください! (2021年4月16日 18時) (レス) id: f96e31a6df (このIDを非表示/違反報告)
夜月(プロフ) - コメント返しありがとうございます! 全然ゆっくりで大丈夫です。 その分読み返したりしてます! 日々の疲れを忘れることが出来感謝です。応援してます! (2021年3月28日 22時) (レス) id: 3292546019 (このIDを非表示/違反報告)
未翔(プロフ) - 夜月さん» コメントありがとうございます!更新のペースはゆっくりになるかもしれませんがこれからも続けていく予定ですので、これからも宜しくお願いします! (2021年3月28日 17時) (レス) id: b3cb87418b (このIDを非表示/違反報告)
夜月(プロフ) - 更新ありがとうございます!いつも楽しく見てました!少しづつでいいのでこれからも更新楽しみにしてます!頑張ってください!! (2021年3月28日 15時) (レス) id: 3292546019 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:未翔 | 作成日時:2020年8月2日 12時